2017年小学館

 小笠原文雄(ぶんゆう)は1948年岐阜県生まれのお医者さん。日本在宅ホスピス協会の会長をしている。末期がん患者などの在宅看取りをこれまでに1000人以上、ひとり暮らしの看取りを50人以上経験している在宅ホスピス緩和ケアのエキスパートである。 

 現在、75%の人が病院で死を迎えています。しかし実際は、介護保険制度ができたことや在宅医療の質の向上によって、ひとり暮らしの末期がん患者さんでも「最期まで家にいたい」という願いは叶います。好きな“処”を選べるのです。

 在宅ホスピス緩和ケアの「在宅」とは、暮らしている“処”。「ホスピス」とは、いのちを見つめ、生き方や死に方、看取りのあり方を考えること。「緩和」とは、痛みや苦しみを和らげること。「ケア」とは、人と人とが関わり、暖かいものが生まれ、生きる希望が湧いて、力が漲ることです。

 著者の表現を用いてより簡単に言うと、在宅ホスピス緩和ケアとは、痛みを取り、笑顔で長生き、ぴんぴんころりと旅立つことである。
 
 本書では、小笠原が実際に関わった約40例の末期患者の看取りの様子が紹介されている。がん末期の人が多いが、脳出血や心不全、認知症や白血病の例もある。高齢者が多いが、難病の子供や30代の主婦や40代の男性の例もある。家族と同居の人、日中だけひとりになる人、ひとり暮らしの人、家族形態もさまざまである。
 ほとんどの患者は余命宣告を受けたあと、「最期は家で過ごしたい」と退院し、小笠原らの行う在宅ホスピス緩和ケアに移行し、多くが予定より延命し、苦しまずに笑顔で亡くなっていく。家族もまた涙混じりの笑顔で見送っている。その証拠に、ついさっき亡くなった身内の安らかな顔と一緒の「笑顔でピース」の集合写真も掲載されている。
 また、在宅の看取りが病院での最期よりお金がかからないことも具体的な数字で記されている。

 本書を読めば多くの人は、がん末期や心不全で要介護状態にあっても住み慣れた家で苦しまずに死ぬことができることを確信し、ならば「自分も家で死にたい」と思うであろう。
 この流れ、どんどん広がっていってほしい。

安らぎ


 ところで、在宅ホスピス緩和ケアを行うにあたっては、ケアを提供する側(医師、看護師、介護士、ケアマネ、ソーシャルワーカー、地域のボランティアなど)は、関連する様々な知識や技術を身につけておく必要があり、その上で患者や家族とのコミュニケーションをはかり信頼関係を築くこと、多職種のチーム連携、最新テクノロジーを使った情報共有なども大切である。
 一方、患者や家族側にも望まれるものがある。 

 それは病院信仰を捨てることです。病院や主治医を信頼することは大切ですが、病院や主治医が言っていることを何から何まで鵜呑みにしてしまうと、判断を間違えます。そうではなくて、あくまでも冷静に、客観的に、病院の主治医の話をよく聞くことです。

 せっかく当人は家で最期の充実した時を過ごしていたのに、死に間際にパニックとなった家族が救急車を呼んでしまい、病院に運ばれて延命処置を施され、結局苦しみながら亡くなった、というケースがよく聞かれる。
 戦後生まれの我々は、「何かあったら病院!」という思いに強く支配されている。その背景には、目の前で人が死ぬのを経験したことのない人間が多くなったということもある。つまり、「死が怖い」。(付け加えれば、目の前で人が生まれるのも経験しなくなった)

 在宅ホスピス緩和ケアとは、病院から「死」を取り戻すことなのである。



評価:★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損