2013年原著刊行
2013年角川書店
世界的ベストセラー作家の6作目。
ソルティは、2作目『天使と悪魔』と社会現象になった4作目『ダ・ヴィンチ・コード』を読んでいる。
「時間を忘れるほど面白いミステリーが読みたい」と思ったときに、かなりの確率で期待に応えてくれる作家である。
陰謀、秘密結社、暗号解読、宗教、芸術、科学、隠された財宝、世界的観光名所・・・といった素材が縦横無尽に織り込まれたアドヴェンチャーミステリー。
――といったところがダン・ブラウンの世界である。
ウンベルト・エコーの『薔薇の名前』ほど重厚かつ難解ではないけれど、読み手にそこそこの教養は求められる。スピーディーな展開、ペダントリー(衒学趣味)、どんでん返し、スリルとサスペンス、魅力ある登場人物、ユーモア、意外な結末といった本格ミステリ-要素もしっかり装備し、まさに究極のエンターテインメント小説の感がある。(その代わり、読み終わって半年たてばストーリーをほぼ忘れている)
『インフェルノ』も既読の上記2作に勝るとも劣らない面白さで、上下巻600ページ強を一気に読み上げた。
物語の舞台が、フィレンツェ、ヴェネツィアというソルティが生涯忘れ得ぬ感動と共に歩いたイタリアの都市であること、謎を解くための暗号がダンテ『神曲』に関わっていること、ウイルスによる感染脅威が物語の根幹を成していること、などもソルティの個人的関心とリンクし、すっかりはまった。
ダンテ『神曲』は高踏で難解と敬遠されがちなのだけれど、なんのことはない、「あの世」の風景を描いた詩なのである。丹波哲郎の諸作と変わらない。
難しく感じるのは、一つにはこれが日本人には馴染みのないキリスト教世界(西洋)の来世観であること、今一つにはダンテが作品中に当時の社会的事件の犯罪者やダンテ自身の仇敵を多数登場させて地獄に落としたりしている(ダンテもなかなか陰険な御仁である)ので、その事情が分からない読者にしてみれば、「何を言っているのかよく分からない」のである。
ソルティは、昔『神曲』を読んだとき、これを『神曲・日本版』にアレンジして、キリスト教来世観を仏教来世観(地獄・畜生道・餓鬼道・阿修羅・天界)に変換し、日本で誰もが知っている有名事件の犯罪者を地獄の亡者や畜生や餓鬼の姿にして、それなりの罰と共に登場させれば、絶対に「ウケる」と企んだものである。
ブラウンの他の著作同様、『インフェルノ』もまた荒唐無稽の物語には違いない。だが、真犯人の天才科学者が事件を起こすことになったそもそもの動機の深刻さは決して荒唐無稽ではない。
それは世界の人口爆発に関わるものなのである。
西暦1年頃に約1億人(推定)だった人口は1000年後に約2億人(推定)となり、1900年には約16億5000万人にまで増えた。その後の20世紀、特に第二次世界大戦後における人口の増加は著しく、1950年に25億人を突破すると、50年後の2000年には2倍以上の約61億人にまで爆発的に増えている。
西暦2038年には90億人を突破、さらに2056年に世界の人口は100億人に達することが見込まれている。(ウィキペディア『人口爆発』より抜粋)
日本では少子化が社会問題となって久しいけれど、巨視的に見れば、少子化は歓迎すべきものなのだ。
地獄の最も暗きところは、倫理の危機にあっても中立を標榜する者たちのために用意されている。(ダンテ『神曲』より)
評価:★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損