1955年大映
108分カラー
原作 吉川英治
脚本 依田義賢、成沢昌茂、辻久一
音楽 早坂文雄
撮影 宮川一夫
天下をとる前の青年平清盛を、やはりスターになる前の青年市川雷蔵が演じている。
この作品で雷蔵は映画俳優として一皮むけ、才能と実力を世に知らしめたという。
その逸話もなるほどと頷けるほど、ここでの雷蔵は吹っ切れた熱演で、華がある。
上皇(院)子飼いの一介の用心棒に過ぎなかった平忠盛・清盛一族が、時の権力者たる天皇方の藤原氏や僧兵を抱える延暦寺の弾圧に屈せず、次第に頭角を現して武家政治の礎を築き始める姿を描く。
「祇園精舎の鐘の声」の無常にはまだまだ遠い、青雲の志の頃である。
清盛の正妻時子を久我美子、母親泰子を木暮実千代、父親平忠盛を大矢市次郎が演じている。
元白拍子で白河院の寵愛を受けて清盛を生んだ「祇園女御」役の木暮実千代が光っている。
元遊女の軽薄と婀娜っぽさ、元女御の気位と風格を配分良く調合させた演技は、さすが溝口監督に愛された名女優である。
武家の奥方には似つかわしくない遊び女のような母親との複雑な関係、実の父親が忠盛ではないと知るも誰なのかわからないという煩悶。自らのアイデンティティに懊悩する青年清盛の姿はすこぶる現代的である。
そしてそれは生まれて間もなく養子に出され、実の両親の愛情を受けることなく育った市川雷蔵の出自とダブる。
それゆえ、雷蔵はこの清盛像に命を吹き込むことが出来たのだろう。
『新源氏物語』(森一生監督)でも『新平家物語』でも同じような悩める青年キャラを配された因縁が興味深い。
いまさら言うまでもないが、溝口の本物志向が隅々まで行き届いた作品で、王朝文化と武家文化の並立期の風物を観る楽しみが存分に味わえる。
映画を観る贅沢ここにあり。
評価:★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損