1979年松竹、TBS
131分

 現行の「犯罪被害者支援法」の元である1980年制定「犯罪被害者給付金制度」ができる際に原動力となったのは、当事者を中心とする市民グループであった。
 その中心人物が、通り魔によって一人息子を刺殺された市瀬朝一氏であった。
 死ぬ間際の息子の「敵をとってくれ」という一言に発奮した市瀬氏は、全国の同じ被害者遺族を訪ね歩き、当事者会を立ち上げ、国会請願活動を行い、世論を形成する大きなうねりをもたらしたのである。
 この映画は、市瀬朝一氏を取材した佐藤秀郎のノンフィクション「衝動殺人」を原作としている。

 市瀬朝一氏にあたる川瀬周三を若山富三郎が演じている。
 文句なしの名演。
 映画男優が目標にすることができる最高レベルの演技と言っていいだろう。
 三浦友和も中井貴一もまだまだである。

 奥さんの川瀬雪絵を木下組往年の主演女優である高峰秀子が演じている。
 これもまたさすがというほかない安定感。
 息子を亡くした母親の悲しみと、病身の夫を支える妻の愛あふれた演技は、下手すると暗く重く深刻になりがちな社会派映画を、家族ドラマに引き戻す力を持っている。
 であればこそ、男性観客も女性観客も感動できる。
 しかも、ここでの高峰は自らは脇に回り、主演の若山富三郎をしっかりと引き立てている。

 ほかのキャストも豪華そのもの。
 若くハンサムな田中健と近藤正臣、若く可憐な大竹しのぶ、夫を喪った生活保護家庭の母親を演じつつもやっぱり美しさが際立つ吉永小百合(これが木下映画唯一の出演じゃなかろうか?)、藤田まことと中村玉緒のいぶし銀、田村高廣と野村昭子の重鎮、清潔で誠実なルックスのせいかここでも得な役回りの加藤剛、出番の多い尾藤イサオはおそらく木下監督に愛されたのだろう。

 この映画の反響が、犯罪被害者給付金制度の成立に一役買ったとのこと。
 『陸軍』、『破戒』、『日本の悲劇』、『笛吹川』、『死闘の伝説』、『この子を残して』などの優れた社会派映画の作り手である木下監督にしてみれば、まさに監督冥利に尽きる出来事であったことだろう。

 そう、木下惠介の社会意識の高さは、終生のライバルと言われた黒澤明とくらべても、少し前の溝口健二、小津安二郎、成瀬巳喜男ら世界的名匠とくらべても、一頭地抜いているように思われる。
 少なくとも、映画芸術と政治性を結び付けた度合いにおいては。
 一方で、『カルメン、故郷に帰る』、『破れ太鼓』のような喜劇、『お嬢さん、乾杯!』、『遠い雲』のような恋愛映画、『二十四の瞳』、『楢山節考』のような文芸映画もたくさん撮っている。
 本当に、この監督の才能と活力には驚嘆のほかない。

 木下惠介の助監督を務めていたこともある脚本家の山田太一が、その昔何かの記事で、「世界のどこにこのような監督がいるだろうか?」と賛嘆していた。
 そのとき20代だったソルティは、記事を読んで、「本邦には黒澤や小津や溝口だっているのに、大げさだなあ」と思った。
 が、ここ数年、木下作品を観まくって(49本の生涯作品のうち24本鑑賞)、山田の意見に、
「まったくその通り」
と同感する。

 空前絶後だ。


評価:★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損