2014~2017年『月刊アクション』(双葉社)連載
2017年同社より4巻コミックとして発売


 近所の図書館でこのコミックスを発見したとき、ちょっと驚いた。
 いかにLGBTブームとはいえ、ゲイ雑誌中心に男同士のエロ漫画を描いていた田亀源五郎の作品を、小・中学生も利用する公共施設で堂々と貸し出すなんて!
 手にとってみたら、同性愛をテーマとしてはいるが、男同士の(あるいは男女間の)キスシーンやからみシーンといった性愛描写はなく、一つ屋根の下に展開する家族ドラマと言ったふうであった。

 借りようと思ったが、全巻そろっていなかった。

 全巻そろうのを待っていたら、5ヶ月近くかかった。
 結構な人気なのである。
 そのことにも驚いた。


 弥一は小学生の娘・夏菜との二人暮らし。両親はすでに他界し、妻とは数年前に離婚している。
 弥一には双子の弟でゲイの涼二がいたが、大学卒業後にカナダに移住し、現地でマイクというカナダ人男性と知り合い、同性婚していた。
 その後、兄弟が再会することないままに月日は流れ、数か月前、弥一は涼二の訃報を知る。
 弥一と夏菜の家に、「弟の夫」であるマイクがはじめて訪ねてくるところから、物語は始まる。

 弥一と夏菜にとっては、二重の意味で異文化との接触である。
 相手は外国人であり、ゲイである。
 とくにこの作品は、異性愛者である弥一という男が、同性愛という異文化といかに出会い、いかに戸惑い、いかに自らや世間の偏見に気づき、いかに変わっていくかが、細やかに描かれている。
 同性愛への偏見がいまだ植えつけられておらず、熊のようなマイクにすぐになついてしまう娘の夏菜との対比も、効果的である。
 また、この漫画には食事シーンが多い。
 一つのテーブルを囲んで同じものを食べる日常を共有するもの。
 それが血縁とは別の意味での家族の定義なのである。

 昔から、田亀源五郎は絵の巧さでは定評があった。
 男の体毛の一本一本をしっかり描くリアリティはここでも健在である。

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 この作品は、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第47回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞している。
 ソルティが知らなかっただけで、2018年3月にはNHK BSでドラマ化されてもいる。
 文化庁とNHKのお墨つきなら、堂々と図書館入りできようものだ。
 
 あれこれあった3週間の日本滞在を終え、マイクはカナダに帰国する。
 きちんと向き合えなかった弟のことを思いながら、また愛する娘の将来を思いながら、弥一はあたりまえのことに気づく。

 一番大事なのは本人の気持ち
 本人が望むことならただ見守り
 幸せならば祝福する
 そんな単純なことだった

 近所の図書館に対する評価が した。




評価:★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損