1952年松竹
103分

脚本 木下惠介
音楽 黛敏郎、木下忠司

 『カルメン故郷に帰る』の続編。
 当初3部作を予定していたらしいが、この2作目で終わってしまった。
 それで正解と思う。

 前作でも予感はあったが、オツムの軽いストリッパーというキャラで喜劇を作るのはちょっと無理がある。
 どうしても性搾取の問題がからんでくるからだ。

 むろん当時は、セクハラやフェミニズムなんて概念はなかったし、知的障害者の人権も問われていなかった。
 今見ると、いろいろ不愉快なところはあるが、当時の観客はとくに疑問に思うこともなく、笑って楽しんだのだろう。

 木下惠介がどう思っていたのかわからないが、敏感な彼のこと、コメディとして「ぎりぎりセーフ」と直観していたのではなかろうか。
 というのも、この作品の演出の大きな特徴として、カメラを左あるいは右に20度くらい傾けて撮影する、すなわち観る者にとって画面が左右どちらかに傾いている、という手法が取られているからである。
 はっきり言って、見づらい。
 まるで、波にもまれている船の上から陸地を見ているかのよう。

 なんのためにこんな奇抜なことをしたのか?
 思うに、観る者に物語をあまり真面目に受け取ってもらわないための措置ではあるまいか。
 「斜に構えて」気楽に観てください、というメッセージだ。
 逆に言えば、そういうシュールな手法をとらなければ(=普通に水平モードで撮影したら)、コメディとして危うい領域にいる様が露呈してしまうのを恐れたからではあるまいか。
 うがち過ぎ?
 
 実際、たとえば、恋をしたカルメンが、客席に惚れた男がいるのに気づいてストリップを続けられなくなる場面で、同僚の男達はカルメンを舞台に引っ張り出し、無理やり服をはぎ取ろうとする。
 まるで強姦まがいで、とても笑えない。
 当時の観客は笑えたのか???
 
 この作品のコメディ性をからくもキープしているのは、主役のカルメン(=高峰秀子)でも同僚の朱美(=小林トシ子)でもなく、あご髭を生やした女傑にして保守系政治家・佐竹熊子役の三好栄子である。
 三好栄子は黒澤明映画にたくさん出ていたらしいが、これまで注目したことはなかった。
 が、この佐竹熊子役で彼女の名前は語り継がれるだろう。
 恐るべき怪演!
 
 ほかに、前衛芸術風ファッションに身を包んだ女中きく役の東山千栄子、ストリップショーでカルメンの相手役をする貧相な顔の堺駿二(堺正章の父親である!)、これが実質的な映画デビューとなった北原三枝(=石原まき子=裕次郎の奥さん)あたりは要チェック。
 

評価:★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損