2018年アメリカ、イギリス
122分

同世代のスター歌手であるにも関わらず、ホイットニー・ヒューストン(1963-2012)についてはよく知らなかった。
ケヴィン・コスナー共演の映画『ボディガード』(1992)を観るまでは。

『ボディガード』を観て、彼女の代表曲とも代名詞ともなった「オールウェイズ・ラヴ・ユー」の入ったサントラ(全世界で4,200万枚の売り上げ!)を買って、繰り返し聞いて、ようやく「うまい歌手だなあ」と思った。
その後、熱が冷めてまた興味を失ったが、海の向こうから聞こえてくるのはドラッグ中毒となった彼女の奇行や激ヤセ、夫ボビー・ブラウンの度重なる暴力沙汰と離婚などのスキャンダルばかりであった。

この伝記映画を観て、ホイットニーの類いまれない美貌と歌の才能を再認識すると共に、彼女くらい「絵にかいたような」大スターの栄光と転落の物語を極めた人はいないんじゃないかと思った。
強いて他にあげれば、マリリン・モンロー、ジュディ・ガーランド、マイケル・ジャクソンあたりか。

ホイットニーが輝かしい成功の裏に隠し続け、後年になるほど表面化してきた負因――支配的な父親に対する依存と確執、子供の頃に親族(叔母)から受けた性的虐待、十代の頃より兄から仕込まれたドラッグ使用――は確かにスキャンダラスで、一人の人間の人生行路を捻じ曲げ破綻させるに十分なものではある。

『ボディガード』で頂点を極めた後、まもなく運命は反転した。

金と権力の亡者となった父親から1億ドルの損害賠償訴訟を起こされ、妻の成功をねたむボビー・ブラウンの暴力事件やドメスティックバイオレンスに悩まされ、ドラッグとアルコールにまみれた荒んだ生活により心身を損なって美貌と奇跡の声を失い、ボビーとの間にできた娘クリスティーナの養育に失敗した(母親の後を追うかのように2015年にドラッグ中毒で溺死)。
ソルティが一番衝撃を受けたシーンは、凄まじい散財のため文無しになったホイットニ―が生活費を稼ぐために仕方なく行った晩年のワールドツアーの映像。
別人かと思うほど劣化しきった容姿とパフォーマンスに、客席からブーイングが飛び交い、途中退席が続いた。

まさに栄光と転落、光と影、天国と地獄の人生。

光と影


彼女があれほどの大スターでなかったなら、ここまで落差は大きくなかったであろう。
彼女を中心に莫大な金(money)と巨大な権力(power)と甚大な影響力(influence)とが絡みあった台風が発生していたゆえに、周囲の人々は自ら進んで、あるいは否応なしに巻き込まれ、被害は拡大した。
彼女一人の力では、どうすることもできなかった。
最後には、彼女自身、自ら作りだした台風に飲み込まれてしまったのである。

この映画では、ホイットニーの生涯を描くとともに、1960~2000年代にアメリカ国内や世界で起きた重要な事件の映像が差し挟まれる。
ホイットニーの生きた時代――それはまさにアメリカ帝国が金と武力と影響力とで国際社会を支配し、その陰にドラッグや家庭内暴力や子供への虐待が蔓延し、表面化した時代であった。

フレディ・マーキュリー然り、大スターというのは時代の鏡そのものだ。



評価:★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損