昨秋の四国遍路以来、一年ぶりの遠出をした。
65日の歩きへんろで旅をじゅうぶん味わい尽くした感があったので、しばらくは趣味の山登りも含めて、遠出する気にならなかった。
晩秋の涼気をあびて、ようやく旅心がよみがえってきた。

行き先は久しぶりの金沢。
前回は2010年に日本三霊山の一つ、白山に登った折であった。
が、金沢発着の登山バスを利用するため行きと帰りにちらっと寄った程度なので、兼六園以外の観光はしなかった。
当然、北陸新幹線開通前である。
その前の来訪は四半世紀前にもなる。
ここ数十年の金沢の移り変わりを知らないのであった。

室堂から白山臨む
白山頂上



今回の目的は二つある。
一つは、金沢生まれの文豪泉鏡花のゆかりを尋ねんがため。
当ブログでも紹介したが、僧侶画家・中川学の描いた鏡花原作の絵本『化鳥』と『朱日記』があまりに良かったので、それらの物語の舞台となった地を歩いてみたくなったのである。
同時に、生家跡に建てられたという泉鏡花記念館(1999年開設)にも足を運びたい。
鏡花の物語世界にどっぷり浸かる。

いま一つは2011年に開館した鈴木大拙館に行くため。
仏教哲学者として名を成し、禅を西洋に広めた大拙もまた金沢生まれなのである。
大拙館には龍安寺石庭のような座禅に最適な空間があると知人に聞いて、なんとしてもそこで瞑想したくなった。
瞑想はどこでだってできるけれど、日常から離れた場所で気分を変えて座ってみるのも、修行意欲を高めるに役立つだろう。
物語から脱して「空」にひたる。

あとは、お決まりの兼六園と、金沢の台所たる「近江町いちば」に寄って新鮮な海鮮料理を食べられれば充分である。


一日目(11月12日晴れ)
09:51 金沢駅着(かがやき503号)
    城下まち金沢周遊バス乗車
10:15 橋場バス停下車
    歩行開始
10:30 泉鏡花記念館(休館!)
    浅野川大橋より卯辰山に向かう
11:00 眺望の丘
11:20 卯辰山三社参詣(卯辰神社、愛宕神社、豊国神社)
    ひがし茶屋街めぐり
12:00 昼食「福天」
    兼六園散策
14:30 金城霊沢
15:20 尾山神社
16:15 金沢駅
    歩行終了

北陸新幹線は台風19号の影響で間引き運行。
予約を入れておいたが、8割くらいの乗車率だった。

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金沢駅

金沢駅、こんなにきれいで立派だっただろうか?
こんなに雑踏していただろうか?
記憶もあやふやなままにバスに乗る。
橋場で下車し、女川という通称を持つ浅野川を渡る。
天気は上々。
ソルティは、長崎でも屋久島でも雨に降られたことがない晴れ男である。

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浅野川


なんと泉鏡花記念館は展示替えのため休館であった。
ネットで確認しておくべきであった。
まあ、よい。
それならそれで、『化鳥』の舞台となった天神橋と卯辰山をじっくり歩こう。

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天神橋(実物と絵本)


『化鳥』に出てくる母と子は、この橋のたもとに小屋を建てて、橋を渡る人から通行料を取って細々と暮らしていたのであった。
橋のこちらは金沢城がそびえる賑やかな城下町。
橋の向こうは卯辰山の麓に、土方や人足、三味線弾きや猿回しなど芸人たちが住む場末。
両界を分ける橋なのである。
『化鳥』は、この卯辰山と浅野川を舞台に少年の周囲で起きる怪異を描いている。

卯辰山は、金沢城から見て卯辰(東)に位置することからこの名がついた。
桜や菖蒲やアジサイやツツジなど花の名所として、また金沢全市を見下ろす展望スポットとして知られている。

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眺望の丘から望む金沢市街


中腹にある今は寂しいばかりの菖蒲園から、卯辰山三社に通じる石段の参道が伸びている。
登っていくと、正面に卯辰神社(天満宮)、向かって左に愛宕神社、右に豊国神社がある。
手入れの行き届いていない、さびれた感が漂っている。


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卯辰神社(祭神は菅原道真公、つまり天満宮なのだ)


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愛宕神社(祭神はカグツチ)


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豊国神社(祭神は豊臣秀吉)


愛宕神社の説明板を読んで、ハッとした。
こうあった。

愛宕白山社
火の神を祀るが、平安時代、将軍地蔵の信仰となり武門の神となる

愛宕神社は秋葉神社と並ぶ火伏の神として知られるが、それは主祭神が火の神、迦遇槌命(カグツチ)だからである。
カグツチはイザナギとイザナミの間に生まれたが、生まれる際にイザナミの陰部は焼けてしまい、それがもとでイザナミは死ぬ。
有名な黄泉比良坂(よもつひらさか)の発端である。

神話はともかく、ソルティがハッとしたのは、泉鏡花の『朱日記』は城下町の大火にまつわる話だからである。
町を見下ろす山の上から、怒り狂った大坊主がたくさんの赤猿を引き連れて下りてきて、町を焼き尽くす。
それを予言する不思議な美女と山麓の小学校に通う美少年との交流。
墨色と朱色だけで描かれた中川学の絵は、美しく幻想的で、しかも迫力満点である。


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朱日記(中川学画)


泉鏡花はこの物語の舞台を特定していないのだが、中川学は地形的特徴などから『化鳥』と同じ卯辰山ではないかと考え、絵本化したようだ。
今回の旅でソルティもそう思った。

怒り狂った大坊主=火の神=愛宕神社の神と考えるとピッタリくる。
そして、手下の赤猿=豊国神社の神=豊臣秀吉と考えるのも一興である。
また、愛宕白山社と注釈されているように、ここには白山神社も合祀されているのではなかろうか。
となると、祭神は菊理媛神(ククリヒメ)である。
物語に登場する、大坊主との結婚(合祀)を嫌う不思議な美女は、菊理媛神の化身なのではなかろうか。

そんなことを考えながら神社の鳥居近くに開けた夕暮れの丘にたたずめば、鈍色の水平線をはるか彼方に、大小のビルがぎっしり立ち並ぶ現代の金沢の街が、不思議な因縁のうちに取り込まれているように見えてくる。

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夕暮れの丘


観光客の行きかうひがし茶屋街を散策し、そのまま兼六園まで歩く。
庭園のそばの天ぷら屋で昼食をとった。


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ひがし茶屋街(かつては遊郭だった)


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福天丼 1900円



つづく。