術後一日め。
午前中つらかった足の痛みは、午後になったら和らいだ。
午後はベッドに腰掛けて、労災保険の申請書類をしこしこ書いた。文字が小さくて目が疲れる。
病室は5階にある。
西側に窓があって、眺めが良い。畑、住宅、学校、鎮守の森が不規則に並び広がる彼方に、晴れた日は富士山が見える。
そう、ソルティは幸運にも窓側のベッドにいる。
4人部屋、満床である。
ドアを入って左側に2床、右側に2床、ソルティは右手奥にいる。
カーテンで仕切られた一人分のスペースは四畳半くらい。テレビ、冷蔵庫は有料、電源は自由に使える。昨今は院内の携帯電話やネットの使用はうるさく言われないようだ。若い患者にとってスマホ無しの生活など苦痛以外の何ものでもあるまい。
ソルティがここに入ったとき、カーテン一枚隔てた隣りのベッドは空いていた。
手術が無事済んだまさに昨夜、というか草木も眠る今朝2時半、男が救急搬送で運ばれてきた。
目が覚めていたソルティは、カーテン越しの騒動に聞き耳を立てた。というより、嫌でも聞こえてくる。
「痛いよ~、痛いよ~、痛いよ~」と絶え間なく繰り返す老いた男の声。
ストレッチャーから「せえのオ!」でベッドに新患を移し、病院用ガウンに着替えさせ、オムツをつけ、バイタル測定し、点滴の準備をし、体位を保つためのクッションを体のあちこちに差し入れるナースたちの手慣れた様子。その間もひたすら「痛いよ~、痛いよ~」とわめき続ける患者。
「今痛み止め入れたから、すぐに効いてくるから、それまで我慢だよ」と言い残してナースたちは立ち去った。その風情たるや、立つ鳥あとを濁さず。
その後30分近く、ソルティは隣りから聞こえる「痛いよ~、痛いよ~」に付き合っていた。
今日は薬のおかげで隣人の痛みは落ち着いているらしい。ときおり、いびきも聞こえてくる。
昼過ぎに奥さんが見舞いに来られた。姿は見えないが、二人暮らしの老夫婦のようだ。
くだんの夫は、重い荷物を持った拍子に腰を痛め、医師にぎっくり腰と診断され「絶対安静」の指示に従い、自宅で10日間ばかり寝ていた。が、痛みは強まるばかり。我慢できずに昨夜ついに救急車を呼んだ。当病院での深夜の診察の結果、腰の骨が折れていた。
痛いはずだ 😰😰😰
老夫婦の会話を聞くともなしに聞いているのだが、珍妙というか滑稽というか、いや、他人事なれど心配になる。
というのも、どうやら夫のほうは軽い認知が始まっている上に、目がよく見えない(緑内障か?)苛立ちやすい気質で泣き言も多い。妻のほうは腰痛持ちの上に耳が遠く、性格はトロい感じで愚痴っぽい。二人の噛み合わない会話、すれ違う気持ち、進まない段取りに思わずカーテンを開けて介入したくなる。
一人息子が近くに住んでいるらしいのが、すぐには来られないなんらかの事情が伺える。
しばらく、老々介護の現実を学ばせていただこう。
午前中つらかった足の痛みは、午後になったら和らいだ。
午後はベッドに腰掛けて、労災保険の申請書類をしこしこ書いた。文字が小さくて目が疲れる。
病室は5階にある。
西側に窓があって、眺めが良い。畑、住宅、学校、鎮守の森が不規則に並び広がる彼方に、晴れた日は富士山が見える。
そう、ソルティは幸運にも窓側のベッドにいる。
4人部屋、満床である。
ドアを入って左側に2床、右側に2床、ソルティは右手奥にいる。
カーテンで仕切られた一人分のスペースは四畳半くらい。テレビ、冷蔵庫は有料、電源は自由に使える。昨今は院内の携帯電話やネットの使用はうるさく言われないようだ。若い患者にとってスマホ無しの生活など苦痛以外の何ものでもあるまい。
ソルティがここに入ったとき、カーテン一枚隔てた隣りのベッドは空いていた。
手術が無事済んだまさに昨夜、というか草木も眠る今朝2時半、男が救急搬送で運ばれてきた。
目が覚めていたソルティは、カーテン越しの騒動に聞き耳を立てた。というより、嫌でも聞こえてくる。
「痛いよ~、痛いよ~、痛いよ~」と絶え間なく繰り返す老いた男の声。
ストレッチャーから「せえのオ!」でベッドに新患を移し、病院用ガウンに着替えさせ、オムツをつけ、バイタル測定し、点滴の準備をし、体位を保つためのクッションを体のあちこちに差し入れるナースたちの手慣れた様子。その間もひたすら「痛いよ~、痛いよ~」とわめき続ける患者。
「今痛み止め入れたから、すぐに効いてくるから、それまで我慢だよ」と言い残してナースたちは立ち去った。その風情たるや、立つ鳥あとを濁さず。
その後30分近く、ソルティは隣りから聞こえる「痛いよ~、痛いよ~」に付き合っていた。
今日は薬のおかげで隣人の痛みは落ち着いているらしい。ときおり、いびきも聞こえてくる。
昼過ぎに奥さんが見舞いに来られた。姿は見えないが、二人暮らしの老夫婦のようだ。
くだんの夫は、重い荷物を持った拍子に腰を痛め、医師にぎっくり腰と診断され「絶対安静」の指示に従い、自宅で10日間ばかり寝ていた。が、痛みは強まるばかり。我慢できずに昨夜ついに救急車を呼んだ。当病院での深夜の診察の結果、腰の骨が折れていた。
痛いはずだ 😰😰😰
老夫婦の会話を聞くともなしに聞いているのだが、珍妙というか滑稽というか、いや、他人事なれど心配になる。
というのも、どうやら夫のほうは軽い認知が始まっている上に、目がよく見えない(緑内障か?)苛立ちやすい気質で泣き言も多い。妻のほうは腰痛持ちの上に耳が遠く、性格はトロい感じで愚痴っぽい。二人の噛み合わない会話、すれ違う気持ち、進まない段取りに思わずカーテンを開けて介入したくなる。
一人息子が近くに住んでいるらしいのが、すぐには来られないなんらかの事情が伺える。
しばらく、老々介護の現実を学ばせていただこう。