2010年ヤマハミュージックメディアより『ようこそ! すばらしきオーケストラの世界へ』のタイトルで刊行
2019年改題し文庫化

 同じ著者による『指揮者の世界』の姉妹編。
 専門的になりすぎず、主観的になりすぎず、一般クラシックファンの目線からオーケストラの魅力を伝えてくれる好著である。

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 さて、ソルティは今でこそ、オーケストラの演奏会やオペラに行ったり、家でクラシックCDを聴いたり、たまに「第九」の合唱に参加したりと、音楽好きを自認しているわけであるが、もともと音楽アレルギーがあった。
 というより、歌アレルギーがあった。
 人前で歌を唄うのが苦手だった。
 理由は単純で、小さい頃から家族に、「お前は音痴だ」「調子っぱずれだ」と言われ続けたからである。
 あまりに言われたものだから、すっかり洗脳されて、「自分は音痴なんだ」と成人するまで思い込んでいた。
 音楽の時間に、学校の先生やクラスメートからたまに褒められることがあったが、それはおそらく声を褒めたのであって、音程の良さでは断じてないと思った。
 友人や職場の同僚とカラオケに行くのも嫌だった。
 なので、他の人が歌うのを聴いても、音程が正確なのかどうか、歌が上手いのかどうか、判定する資格は自分にはないと思っていた。
 基準となる音感が狂っているゆえに。

 さらに、家族がらみの記憶を言えば、小学生の頃、自分は天地真理のファンだった。
 70年代に一世を風靡した国民的アイドル歌手である。
 自分の小遣いで最初に買ったレコードは、彼女のヒット曲『ちいさな恋』、『ひとりじゃないの』、『虹をわたって』と、やはり当時人気のあったチェリッシュの持ち歌をカバーした『ひまわりの小径』の計4曲が入ったアルバム(33回転)だった。
 家族と一緒にお茶の間で歌番組を観ていて、天地真理が出てくると夢中になって応援したものだが、そのとき家族が必ず言うのは、「この人、歌ヘタクソだねえ」という一言だった。
 自分がけなされたような気持になった。

 ソルティ自身は、「天地真理が、歌が下手」とは全然思わなかった。
 たしかに、彼女の発声の仕方は独特で、他の歌手とくに演歌歌手なんかとは全然違っていた――透明感ある美しいソプラノだった――けれど、音程もリズムも別段おかしいとは思わなかったし、とにかく聴いていて気持ちよかった。
 しかるに、なにせ自分自身が音痴である。
 反論できずに、くやしい思いをした。
 
 あれから40年以上たった。
 たま~に、ネットで昔の歌謡番組の動画を見ることがある。
 歌謡曲全盛で、歌番組がいくつもあって、芸能界が輝いていた頃のアイドル歌手やスター歌手の歌唱姿に、懐かしさを覚える。
 当然、「白雪姫」と呼ばれた当時のうら若き天地真理の動画も見る。
 そして、驚くのだ。
 「歌、うまいじゃん!」

 持ち歌も良いが、『あの素晴らしい愛をもう一度』とか『この広い野原いっぱい』とか『虹と雪のバラード』などフォークソングが、情感豊かで心洗われる。
 そうなのだ。
 天地真理は子供の時からピアノを習い、国立音楽大学附属中学校および付属高校に進み、ピアノ科と声楽科に在籍した。
 音楽は素人レベルではないはず。
 あの独特の歌唱法には、クラシック要素が入っていたためだろう。
(ただ、いったん引退して復活してからの歌はひどかったが・・・)


天地真理

 
 すでにお分かりかと思うが、ソルティはきっと音痴ではなかった。
 ソルティ以外の家族が音痴だったのだ。
 
 音痴トラウマがなかったなら、もっと早くクラシックに馴染んでいたかもしれない、オケをやっていたかもしれない。
 コンサートで素晴らしい演奏に出会うと、ときどき口惜しい思いがするのはそのためだ。
 
 
評価:★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損