1954年松竹
2007年デジタルリマスター版
156分白黒

原作 壺井栄
脚色 木下惠介
音楽 木下忠司
撮影 楠田浩之

 数十年前にVHSビデオで観たとき、画質と音声の悪さに辟易したのを覚えている。物語に十分入り込めなかった。
 今思えば、マスターテープのせいではなく、当時自分の持っていたビデオデッキのヘッドが摩滅していたのと、借りてきたビデオも擦り切れていたのだろう。VHSレンタル時代にはよくあることだった。
 今回デジタルリマスター版(DVD)で観たら、まずまず美しい映像が堪能でき、音声もクリアだった。技術の進歩に感謝。

 舞台となった小豆島の美しい自然、島民の昔ながらの暮らしぶり、そして十二人の子供たちの可愛らしさに魅了される。いま小豆島に行ったら、どう感じるだろうか?

 役者の世界では「子供と動物には勝てない」とよく言われる。けれど、ここでの高峰秀子は十二人の天然の役者たちにまったく食われることのない存在感を出している。演技ということを感じさせない自然さ。高峰はこの映画公開の翌年に助監督の松山善三と結婚したが、そのあたりの事情も関係しているのかもしれない。若き日の大石先生は生きる希望に光り輝いている。

 ほかに、天本英世が大石先生の亭主役で出演している。後年の死神博士(仮面ライダー)からは想像できない、東出昌大真っ青の背高イケメンぶりである。
 小学校の男先生を演じる笠智衆のとぼけた味も楽しい。教壇に立って、「ひひひ・ふ・みみみ」とか下手な唱歌を子供たちに指導するシーンは智衆ファンなら見逃せない珍場面である。
 
 多分に漏れずソルティも年を取るほどに涙もろくなってきたが、映画の後半はほとんど泣きっぱなしであった。貧しさ、病い、出会いと別れ、絶たれた夢、予期せぬ事故・・・この映画には庶民の人生の哀感が詰まっている。そのうえに、戦争という大いなる悲劇が降りかかる。
 『陸軍』からはじまって『この子を残して』に到る木下惠介監督の反戦と平和への思いが、瀬戸内の海に鎮魂歌のように浸透する。

 
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大石先生も足を怪我して松葉杖!


評価:★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損