1998~2000年雑誌「アックス」連載
2000年青林工藝舎より刊行

 花輪和一自身の獄中体験記である。
 崔洋一監督、山崎努主演で2002年に映画化されている。

 すでに漫画家として活躍していた花輪は、1994年12月に銃刀法等違反で逮捕された。
 1995年3月より札幌の拘置所で過ごし、9月に懲役3年が確定。10月より札幌刑務所と函館刑務所にて服役、1997年4月に仮釈放となった。

 『月刊漫画ガロ』(1964~2002年頃まで刊行)などで怪奇ファンタジーを中心に描いていた花輪の作品を、残念ながらソルティは読んでいない。
 これが花輪デビューである。

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 かれこれ20年以上前の体験記なので、現在の刑務所とは細かいところでずいぶん違っていることだろう。花輪の画風というか絵の質感がまた「もろ昭和」なので、収監時は平成だったにもかかわらず、60~70年代くらいの日本の貧乏臭さと鄙びた感が紙面から漂ってくる。
 人権的配慮から受刑者への待遇が向上した、つまり「甘くなった」という話は、殺人罪で無期懲役となり現在も LB (長期累犯)刑務所にいる美達大和の本に書かれていた。また、この IT 時代、いろいろな面でコンピュータ化が進んでいることも想像つく。
 
 一方、いくら周囲の環境が変わっても、男ばかりの管理統制された集団生活が醸し出す雰囲気や、囚人同士の会話や人間関係、制約された環境下で個々の囚人が抱く欲望や妄想は変わることないだろう。その点で、古びることない男の性(さが)を覗く面白さがある。

 それにしても、花輪の絵はアクが強い。ここに描かれているのは、札幌や函館の刑務所である以上に、花輪和一刑務所である。花輪はまったくオリジナルな刑務所を創り上げている。
 まったく同じ話を別の、やはり個性的な漫画家が描いたら、まったく別の監獄世界が出現するだろう。手塚治虫刑務所、横山大輝刑務所、鳥山明刑務所、さくらももこ刑務所、伊藤潤二刑務所、竹宮恵子刑務所、尾田栄一郎刑務所・・・。想像すると面白い。
 ソルティは竹宮恵子刑務所(BL刑務所?)には入ってみたいなあ~。
 田亀源五郎刑務所にも・・・。



評価:★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損