2013年KKベストセラーズ

 藤野美奈子と言えば、『友子の場合』(小学館)である。
 『ビッグコミックスピリッツ』に連載され、1996年ともさかりえ主演で映画化されたあの青春ギャグマンガには、ずいぶん笑かしてもらった。
 軽妙な絵のタッチ、破天荒なストーリー展開、絶妙なボケ、リアルタイムな「あるある」ネタなど、ソルティの笑いのツボに見事ハマった。
 その後、名前を見かけなかったが、こんなコミックを出していた。

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 出版社からの依頼を受けて書いたとのことだが、何の因果か、まさに藤野の母親が数十年来、ある宗教にハマっていたのであった。
 本の前半は、熱心な取材をもとに構成した、新宗教のありがちなトラブルエピソードがコミカルに描かれている。勧誘、洗脳、マインドコントロール、莫大な献金、奇天烈な儀式、いかがわしい教祖、独特な会則、怪しげな霊感商法、信者でない家族との摩擦・・・といったたぐいである。
 後半は、藤野の母親が夫の病気をきっかけにある女性霊能者をたずね、彼女の影響を受けて神仏にハマっていった経緯が描かれている。
 やはり、著者の身近な話でノンフィクションの後半が面白い。

 前半だけ読むと、藤野は新宗教を含め宗教全般に否定的なように思われるが、固い信仰に支えられ祈りと感謝のうちに生きてきた母親のことを書いた後半を読むと、宗教の価値をそれなりに認めていることが知られる。
 宗教学者の島田祐巳の監修を得て、バランスの良い楽しい読み物になっている。家族愛の物語としても読めるし、藤野のギャグセンスはいっこうに錆びついていないことがわかって嬉しかった。

 「おわりに」で、藤野はこう記している。
 
世の中には病気や災害以外にも、犯罪の被害で亡くなるなど、とうてい耐えられないような不条理があります。運命や宿命などの言葉では、決して納得できない悲劇に見舞われたとき、多くの人はやっぱり母の言うように、最後の最後には祈るのかもしれません。祈りは、何もかも失い、なす術がなくなった人に、唯一残された「自分でできること」ですから。

 正確に言うなら、こうだろう。
 祈るか、悟るか、自暴自棄になるか――が唯一残された「自分でできること」だ。


評価:★★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損