1992年小学館より刊行
2007年講談社学術文庫
一昨年の秋の四国遍路で香川県を歩いているとき、78番郷照寺から79番天皇寺に向かう途中、自転車に乗っている男に呼びかけられた。JR予讃線坂出駅の近くである。
こちらが足を止めると、男は自転車から降りて、みかんの接待をしてくれた。
そこから会話が始まった。
男は75歳。地元の人である。若い頃、東京に出て働いたが、父親が癌になり、母親に懇願され、泣く泣く実家に戻った。それからは地元暮らしである。子供の頃から絵を描くのが好きで、本当は画家になりたかった。今一番したいことは、「東京に行くこと、富士山の絵を描くこと」である。
なるほど、スリムな体系、年齢の割にはカラフルな装い、タイヤが細くハンドル位置の低いスポーツ系自転車をさっそうと乗りこなし、坂出ではちょっと浮くのではないかと思うお洒落なおじさんだった。
話は当然、ソルティが次に向かう札所79番天皇寺のことになった。
香川県(讃岐)は、平安末期に保元の乱に敗れて流罪となった崇徳天皇が晩年を過ごした土地である。天皇寺は、崇徳天皇が亡くなったときに遺体を一時安置したところから、その名で呼ばれるようになった。寺院境内には、崇徳天皇を祀った白峰神社がある。
また、お寺の近くには、天皇の遺体が夏の暑さで腐敗しないようにしばらく漬けておいたという、「八十場(やそば)の水」と呼ばれる湧き水の池がある。
香川県(讃岐)は、平安末期に保元の乱に敗れて流罪となった崇徳天皇が晩年を過ごした土地である。天皇寺は、崇徳天皇が亡くなったときに遺体を一時安置したところから、その名で呼ばれるようになった。寺院境内には、崇徳天皇を祀った白峰神社がある。
また、お寺の近くには、天皇の遺体が夏の暑さで腐敗しないようにしばらく漬けておいたという、「八十場(やそば)の水」と呼ばれる湧き水の池がある。
崇徳天皇と言えば、日本の大魔王であり、平将門、菅原道真とならぶ日本三大怨霊の一人である。保元の乱の勝者である後白河天皇一派に対する恨みは凄まじく、髪や爪は伸び放題、自らの舌の先を喰い切って出した血で、次のような誓文を記し、壮絶な最期を遂げたと言われる。
日本国の大魔縁となり、皇(すめらぎ)をとって民とし、民を皇となさん
つまり、天皇制の破壊を誓ったのである。
その呪いの実現を妨げ、崇徳天皇の御魂を鎮めるために、明治維新の際には倒幕に先立って明治天皇が京都に白峰宮を建立し、崇徳天皇の霊の京都奉遷を行っている。
日本国の大魔縁となり、皇(すめらぎ)をとって民とし、民を皇となさん
つまり、天皇制の破壊を誓ったのである。
その呪いの実現を妨げ、崇徳天皇の御魂を鎮めるために、明治維新の際には倒幕に先立って明治天皇が京都に白峰宮を建立し、崇徳天皇の霊の京都奉遷を行っている。
「表立っては報道しないけれども、歴代の天皇は必ずここに参拝に来るよ」と自転車おじさん。
浩宮、もとい令和天皇もすでに礼拝したのだろうか?
「崇徳天皇のお墓もそこにあるんですか?」とソルティが聞くと、
「いや、天皇寺にはないよ。この先の81番白峯寺の裏手にあるから、行くといいよ」
聞いてよかった。知らなければ、気づかずに素通りしてしまうところだった。
浩宮、もとい令和天皇もすでに礼拝したのだろうか?
「崇徳天皇のお墓もそこにあるんですか?」とソルティが聞くと、
「いや、天皇寺にはないよ。この先の81番白峯寺の裏手にあるから、行くといいよ」
聞いてよかった。知らなければ、気づかずに素通りしてしまうところだった。
一般には恐れられている崇徳天皇であるが、自転車おじさんの口ぶりからはむしろ身びいきに近い親しみすら感じられた。なんだかんだ言って、地元に縁ある有名人で、観光資源の一つで、中央政府が恐れるほどの強い力を持つ神様なのだ。後年、四国の守り神として遇されたようでもある。
いま大河ドラマで注目を浴びている明智光秀の例に見るように、一般的には評判の良くない歴史上の人物が、ゆかりの土地では人気絶大であるというのはよくあることなのだ。
それに、もしかしたら、野心なかばで訳あって都(東京)から離れざるを得なかった自転車おじさんにしてみれば、同じような境遇の崇徳天皇は共感できる相手なのかもしれなかった。
本書は、日本妖怪史に燦然と輝く8人の鬼神・妖怪たちを取り上げ、その身上調査を記したものである。
著者の小松和彦は1947年生まれの文化人類学、民俗学の研究者。当ブログで紹介した著書『神隠しと日本人』でも分かるように、古い伝承や習俗の背景に隠れた、当時の人々の意識に上らない、口に出せない欲求や不安や恐れを探る心理学的アプローチが愉しい。
崇徳天皇以外のメンバーを上げると、
大江山の鬼、酒呑童子
妖狐、玉藻の前
是害坊天狗
戸隠山の鬼女、紅葉
つくも神
鈴鹿山の鬼、大獄丸
宇治の鬼女、橋姫
著者の小松和彦は1947年生まれの文化人類学、民俗学の研究者。当ブログで紹介した著書『神隠しと日本人』でも分かるように、古い伝承や習俗の背景に隠れた、当時の人々の意識に上らない、口に出せない欲求や不安や恐れを探る心理学的アプローチが愉しい。
崇徳天皇以外のメンバーを上げると、
大江山の鬼、酒呑童子
妖狐、玉藻の前
是害坊天狗
戸隠山の鬼女、紅葉
つくも神
鈴鹿山の鬼、大獄丸
宇治の鬼女、橋姫
多くが平安時代後半、すなわち末法の世が目前に迫り、安倍清明ら陰陽師や験力ある僧侶たちが妖怪や物の怪退治に活躍する時代の話である。
那須野の殺生石のいわれとなり能楽にもなった玉藻の前(=金毛九尾の狐)、杉の大木を見上げる吉永小百合のCMで有名になった信州戸隠神社の鬼女紅葉、もちろん讃岐の崇徳天皇、自分が訪ねたことのある土地の伝説ほど、興味深いし面白い。
民俗学に興味を持つと、旅の楽しみは数段アップする。
足が治ったら、50歳以上限定JR「大人の休日倶楽部」に入会して、伝説検証の旅に出たいなあ~。
評価:★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損