2007年日本、フランス共同制作
97分

 「もがりのもり」と読む。
 第60回カンヌ国際映画祭の審査員特別大賞「グランプリ」を受賞。
 三十年以上前に妻を亡くした認知症の男(=うだしげき)と、子どもを事故で失った若い介護士(=尾野真千子)との交流を通して、愛する者を失った人間の魂の軌跡を描く。
 
殯は、荒城(あらき)とも言い、「貴人の遺体を、墳墓が完成するまで仮に納めて置いたこと。また、その所」の意。(小学館『大辞林』より)
 
 日本は現在、100%近く火葬である。
 ソルティは小さい頃(60年代初頭)、近所の地主一家のご隠居が亡くなった時、一家専用のお墓に土葬されたのを見た記憶がある。そのお墓は子供たちの遊び場となっていたが、黒々とした盛り土に近寄りがたいものを感じ、以後そこで遊ぶのを控えた。
 それが最初で最後であった。
 埼玉県には土葬習慣が残っていたのである。
 
 殯の風習はいま残っていない。
 沖縄県には風葬の歴史があったと民俗学の本には記されている。遺体を棺に入れて洞窟や崖下に放置し、自然に風化してから洗骨するのだ。これもある意味、殯の一種であろう。
 沖縄の離島に実家を持つ知り合いに尋ねたら、「いまでもやっているよ」と言っていた。
 からかわれたのかもしれん。

土葬

  
 愛する者を喪った事実を受け入れるのは容易なことではない。
 表面上は受け入れられても、心の整理がつくようになるには長い長い時間を要する。
 いや、この映画の男のように時間だけでは解決できないかもしれない。

 死者のかたわらで嘆き悲しみ、その冷たい骸(むくろ)に触れ、腐敗し白骨化するのを目撃する殯という風習は、一見残酷でグロテスクのように見えるけれど、死という事実を受け入れ、喪失と向き合い、心の整理をつけていく、昔の人が考えた知恵なのかもしれない。

 認知症の男は亡き妻の33回忌に、女介護士と一緒に墓参りのドライブに出かける。
 それが途中でアクシデントがあって、車から逃げ出してしまう。
 何かを探してずんずん森の奥に入っていく男。追う女。
 二人は深い森の中で一夜を過ごす。
 男はついに陽の差さない一角にたどりつき、そこで亡き妻を弔い始める。

 細かい説明は一切ないのだけれど、察するに、この一角こそ男の妻が亡くなった場所、すなわち妻は自殺したのだろう。
 毎年お寺に行って墓参りし、遺骨を拝んでいたであろうけれど、男は妻の死を受け入れられなかった。
 森の中が殯の場であったのだ。
 
 映像の美しさと、うだしげきと尾野真千子の迫真の演技に圧倒された。



評価:★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損