1990年アメリカ、カナダ
187分

 原作はスティーヴン・キングの小説(1986年発表)。
 ホラー映画史上、最もヒットした作品で、2017年にリメイクされた。

 子供の頃、ソルティがもっとも怖かったものの一つはチンドン屋であった。
 と言っても、チンドン屋を知らない若い人も多いだろう。

ちんどんや【ちんどん屋】
人目をひく服装をして、鉦(かね)・太鼓をたたき、三味線・クラリネットなどを鳴らしながら広告・宣伝を行う職業。また、その人。東西屋。ひろめや。(小学館『大辞林』)

 お馴染みの音楽とともにチンドン屋がやって来るのを見かけると、街にいれば親の背中にしがみついて隠れ、外で遊んでいればすぐさま家に走って、彼らが通り過ぎて音が聞こえなくなるまで震えていた。
 なぜ、そんなに怖がったのかよく思い出せない。時代劇に見る非日常的な恰好のせいなのか、表情のわからない白塗りの顔のせいなのか、白昼にいきなり出現する唐突さのせいなのか。
 ソルティがチンドン屋を怖がることを利用し、親は何かにつけ、「悪いことすると、チンドン屋に頼んで連れて行ってもらうよ」と叱ったものである。それを聞くと、大泣きして、「ごめんなさい。もう二度と悪いことはしません」と謝るほかなかった。
 チンドン屋のみなさんにしてみれば、迷惑千万な話である。

 だが、この経験がソルティの中に一つの畏怖をともなうトラウマをつくった。
 「どこからか風のように現れた正体不明の異形の者が、小さな子どもを連れて、忽然と消え去ってゆく」
 童話『ハーメルンの笛吹き男』に象徴される人さらい潭である。
 
 このようなトラウマが自分一人だけのものではないことを知ったのは、小学生になって江戸川乱歩の『地獄の道化師』を読んだ時だった。道化師の扮装をした殺人鬼が、次々と美しい女性をさらっては手にかけてゆく。
 乱歩は、他の作品でも道化師を登場させていたように記憶するが、「サーカスの人気者で子供たちに夢と笑いを与える人」という一般的イメージ(某バーガーチェンの看板キャラ)の裏にある、道化師という存在の不気味な本質(=正体不明、年齢不詳、性別不明)をえぐり出して、小学生のソルティを恐怖に落とし入れた。
 が、今回は泣いて逃げるようなことはなかった。
 逆に乱歩文学にハマっていったのである。

 うがった見方をすれば・・・。
 「正体不明、年齢不詳、性別不明」という、まるで美輪明宏のような存在に、「いつか自分もなってしまうのでは・・・?」という、いまだ自覚化されていない自らのセクシュアリティに関する潜在的な恐れが、道化師に投影されていたのではなかろうか?
 なるほど、チンドン屋でもっとも怖かったのは、白塗りの男であった。
 
 この映画を観ると、道化師に対する恐怖心が万国共通のものであることが察しられる。
 実際、「道化恐怖症(コルロフォビア)」なる言葉も存在し、俳優のジョニー・ディップはその一人なのだそうだ。

道化恐怖症(どうけきょうふしょう、英: Coulrophobia)は、恐怖症のひとつ。メーキャップしたピエロを見ると、本来ゆかいなおどけものを象徴したそのキャラクターに対して極めて恐怖感を覚える病的な心理。ピエロ恐怖症、クラウン恐怖症。
(ウィキペディア「道化恐怖症」より抜粋)


四国遍路2 001
四国遍路で泊まったへんろ宿の看板


 映画の出来自体は、無駄に長く、大人の鑑賞に堪えるものとは言い難い。
 というより、原作は読んでないのでどうだか知らないが、映画は最初からティーンエイジャー以下にしぼって作られたのだろう。この映画を観た子供の中から、また新たな「道化恐怖症」が生まれてゆくのが容易に想像される。
 ピエロの恰好をして出没する IT の正体が最後の最後に明かされるが、そのあまりな「ウルトラQ」ぶりにソルティはずっこけた。
 原作者のキングが、IT (それ)を大の苦手とするらしい。


おすすめ度:

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損