1953年現代ぷろだくしょん
109分
原作:小林多喜二
脚本:山村聰
音楽:伊福部昭

 山村聰(やまむらそう)は、小津安二郎『東京物語』で笠智衆と東山千栄子演じる老夫婦の長男、東京に住む医師を演じた俳優である。おそらく、俳優としてはこの一作で映画史に名前が残ろう。

 監督として、こんなリアリズムたっぷりの骨のある映画を撮っているとは知らなかった。 
 実際、俳優の片手間とは思えない、質の高い作品で見ごたえ十分であった。
 
 この映画でもっとも重要な役は、血も涙もない蟹工船の鬼監督・浅川であろう。ふてぶてしく傲岸なキャラで、全乗組員の怨嗟と恐怖の的になる人物である。この役が十全に生きないと、作品そのものが成り立たたない。
 これを演じているのは平田未喜三という名の男優。とんでもないハマりぶりで、名優として知られる山村聰や森雅之を食うほどの存在感は、主演男優賞ものである。
 ウィキペディアにはその名の記載がない。
 コトバンクで調べたら、次のようなことが分かった。


平田未喜三
明治40年 1月30日、千葉県安房郡鋸南町生まれ。
郷里で定置網漁業を始め、沿岸漁業、造船鉄工と事業を拡張、昭和29年から通算12年鋸南町町長を務めた。
28年の「蟹工船」以来、異色俳優として日活映画に度々出演、テレビも「小川宏ショー」などにレギュラー出演。
その後東京湾の浮島(個人所有)で薬草アロエ研究農園を経営。
平成3年 1月27日没。
(コトバンク「平田未喜三」参照)


 浅川を演じるにこれ以上ない経歴と器の主だったのである。
 この人も、これ一作で名前が残ろう。


蟹




おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
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★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損