2017年アメリカ
113分

 『タクシー・ドライバー』で知られる名匠ポール・シュレイダーよる哲学性の高い人間ドラマ。
 原題 First Reformed は、主人公トラー牧師(=イーサン・ホーク)が勤める教会の名前。
 
 従軍牧師として体験した悲惨な戦場、戦死した息子と崩壊した家庭、孤独、忍び寄る病魔、神意に対する疑い、そして、自らの教会が大規模な環境破壊企業の資金によって成り立っていることを知って生じる懊悩。
 トラー牧師の魂は危機に瀕する。
「このような地球に新しい生命を送り出すことは悪ではないか?」と問いかける信者に対し、トラー牧師は納得ゆく答えを与えることができず、信者は猟銃自殺してしまう。
 絶望し信仰を失ったトラーは、教会の設立式典での自爆テロを企図する。

 「この世は悪魔の支配するところであり、子どもを作ることは悪」というカタリ派的な問いに飲み込まれてしまった誠実な牧師の心の軌跡と、魂の危機からの救出を描いている。


地球


 グレタ・トゥーンベリに叱られるまでもなく、環境破壊の現実をありのままに見たときに、その背後に渦巻く人類の際限ない欲望と無知を見たときに、そしてまた、今まさに地球レベルで進行しつつある比類ない新型コロナウイルスの危機を前にしたときに、人類の未来に希望を見出すのは困難なことである。
 神の存在を信じ、「これもまた神の隠れた意図にほかならなず、最終的にはみな救われる」と楽観視するのは、日本人の好きな神風信仰となにも変わらない。

 トラー牧師は、一人の女性との出会いと愛によって自爆テロをあきらめる。
 結局、魂の危機を救ったのは愛、それもキリスト教のいうアガペー(無償の愛)ではなくて、エロス(性愛)であった。
 それが結論・・・・・???

 本作は、シュナイダー監督の人生の「集大成的な作品」との由。
 エロスこそすべて、というのが落着点だったのか?
 まるで、空海密教のようである。

 飛沫感染でうつる新型コロナウイルスは、人類をして、HIV以上に性愛を拒否させる。
 自粛にはもちろん性行動が含まれるが・・・。
 人類は性愛なしにどこまで持つのだろう?



おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損