1987年東映
133分

 五社英雄監督は、夏目雅子主演の『鬼龍院花子の生涯』や岩下志麻主演の『極道の妻たち』など、裏社会を描いた作品で知られるが、明治期の吉原遊郭を舞台にしたこの『吉原炎上』も、ある意味、裏社会ものと言ってよかろう。
 東映が得意とする分野である。

 ソルティは、ヤクザ映画は藤純子の緋牡丹のお竜シリーズ以外には関心がなかったので、五社英雄は観たことがなかった。
 もったいないことをした。
 五社監督は、女優を輝かせることのできる人、つまり、男よりも女を描くに上手い人なのであった。

 この『吉原炎上』でも、出演女優たちの輝きが一番の見どころである。

 主演の名取裕子は、遊郭での地位が上がるにつれ、徐々に美しさと貫禄を増していく。二宮さよ子とのレズビアンシーンなど、ケツまくった体当たり演技は女優魂を感じさせる。

 五社作品の常連、かたせ梨乃のバンカラ風熱演も光る。

 ケツまくったと言えば、仁支川峰子である。
 噂には聞いていたが、血を吐きながら絶叫するシーンの凄まじさは、この映画のクライマックス――というか物語やらテーマやら共演者やら時代考証やら、他のすべてを吹っ飛ばしてしまう超ド級の破壊力である。
 このシーンのためにこの映画は作られたかと思うほど。
 この演技だけで、仁支川峰子は日本映画史に名を残すだろう。
 このシーンを見ているかいないかで、人の「峰子観」はずいぶん違ってくるはず・・・。

 文明開化の波を感じさせるハイカラな遊郭のセットや美術、ラストの大火の迫真性、園佳也子、左とん平、竹中直人、河原崎長一郎など、個性的な脇役の登場も楽しい。

 ときに吉原炎上は史実である。
 明治44年(1911)4月9日、吉原の一角から火が出た。
 昼間だったことで死者は8人ですんだが、郭内外の約3000戸が焼失したという。

吉原炎上


おすすめ度 : ★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損