1955年インド
125分、白黒

 借りてきたDVDの冒頭には、著名な映画評論家であった淀川長治さんの解説が入っていた。
 あの人懐っこい笑顔と人を引きつける語り口、無性に懐かしかった。
 むろん、『大地のうた』は淀川さん大絶賛の名作である。

 いまの自粛=インドア中心生活の良いところは、これまでなかなか読む機会のなかった重厚あるいは長大な本や、観る機会のなかった昔の名作映画を、じっくり味わえることだろう。
 いや、機会はつくれたのだけれど、他のより軽い娯楽作品やら外出の魅力に負けて、「いずれそのうち」と後回しになっていたのである。

 コロナのおかげで、社会の化けの皮がはがれていくような気さえする昨今、より本質的なもの=「生」の根本に立ち戻ってみたいという気持ちが強まる。
 となると、やはり古典に如くはない。
 そしてまた、ソルティにとって、「生」の根本を教えてくれる場所があるとしたら、二十歳の時にはじめて旅行したインドを措いてない。

インドの牛


 『大地のうた』は、インドのある農村に暮らす貧しい一家を描いたサタジット・レイの監督デビュー作である。
 一家の一人息子オプを主人公とした『大河のうた』、『大樹のうた』で3部作を成す。
 やっと、この伝説的名作を見る機会が訪れた。

 自然に囲まれ、家畜が跳ね回るあばら家で、人は生まれ、遊び、飲み食いし、飢え、学び育ち、愛と怒りの間を行き来し、希望と絶望の間を揺らぎ、自然に襲われ、病み、老い、そして死ぬ。
 ここに描かれるのは、まさに「生」の根本である。
 その厳しさ。
 そのはかなさ。
 その圧倒的美しさ。

 いま、まさに観るべき映画。 
 タイミングは間違っていない。



おすすめ度 : ★★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損