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2003年原著刊行
2007年河出書房新社より邦訳発行

 アメリカ発のスピリチュアル本。
 著者ゲイリーと二人のアセンデッド・マスターとの17回の対話から成る。

 アセンデッド・マスターとは、天界にいる高尚な魂を持った人たちのことで、一度は肉体を持って地球上で生きた経験があり、亡くなった後、神の視点を以て人々を導いている。
 イエス・キリスト、聖母マリア、ブッダ、ガンジー、マザー・テレサ、サンジェルマン伯爵、大天使ミカエル、サマート・クマラなどの名が上げられることが多い。
 この本に出てくるマスターは、イエス・キリストの使徒であったトマスとタダイ。
 二人は、パーサとアーテンという名の現代風の男女の姿をして現れ、ゲイリーに『奇跡のコース』の学習を勧める。

最後の晩餐
向かってイエスの右隣で人差し指を天に向けているのがトマス
右端から2番めの白い髭のある老人がタダイ
(ダ・ヴィンチ作:最後の晩餐)


 シャーリー・マクレーンの『アウト・オン・ア・リム』(1983年)以来、アメリカのスピリチュアル本を数多く読み漁ってきたソルティにしてみれば、「もう、こういうの、十分!」というのが偽らざるところである。
 バシャール、ラムサ、ラザリス、プレアデス、聖なる予言、神との対話、ホピ族の予言、古代マヤ暦、ミュータント・メッセージ(笑)、ロバート・モンロー、エドガー・ケイシー、レイモンド・ムーディー、・・・・・。
 我ながらよくもハマったものだ。

 しかしながら、実は一つだけ、その存在は知っていながら、正体がつかめず、距離を置いてきたものがあった。
 分量が多いためか、最近まで邦訳されていなかった『奇跡のコース』(A Course in Miracles)がそれである。

 奇跡のコースとは
 アメリカ人心理学者ヘレン・シャックマンが、イエス・キリストと思われる内なる声を聞いて書いたとされる、英語のスピリチュアリティ文書である。
 世界は幻影であり自らの外には何も存在せず、己が神と一体であるという、古代インドのアドヴァイタ・ヴェーダーンタ的な非二元論思想が説かれている。
 この作品の最大の前提は、人生で達成できる最大の「奇跡」は「愛の存在を知ること」である、という教えである。神と一体となることで、愛を知るとされる。ニューエイジで広く読まれ、バイブル的存在だった。

 講座は1200ページからなり、テキスト、ワークブック(1日1題で1年分)、指導者向けのマニュアルで構成されている。最初の一連のレッスンは「今のあなたのものの見方を根底から崩す」ためのもので、2番目は「真の知覚の獲得」を目指している。

 1976年に出版されてから、22言語に翻訳されている。本は世界中に広まっており、組織された団体の基盤になっている。英語版は2007年時点で100万部以上の売り上げがあり、ベストセラーになったスピリチュアルな自己啓発本を通しさらに数百万人に影響を与え、学習団体も世界中で増加している。

(ウィキペディア『ACIM』より抜粋)


 ゲイリーは、パーサとアーテンの勧めに応じて、“イエスの真の教えである”ところの『奇跡のコース』の自己学習を始める。
 ゲイリーの学習を見守り励ましながら、その進展に合わせるように、パーサとアーテンは、宇宙やこの世の仕組み、エゴの罠、病の意味、セックスの意味など様々なテーマについて、ゲイリーと対話する。
 つまり、『神の使者』は、『奇跡のコース』の解説書、指南書、宣伝本、勧誘本といった趣きを成しているのである。

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 読み進めて驚いたことに、『奇跡のコース』はイエス・キリストによるメッセージと謳いつつも、まったくキリスト教的でないのである。
 もちろん、「愛とゆるし」の大切さを強調しているのは、聖書の中のイエスそのままである。
 しかるに、ここで説かれる宇宙観、世界観、来世観は、天国や復活や天地創造や最後の審判を説くキリスト教のそれとはまったく異なる。
 
アーテン このことははっきりさせておこう。神はこの世界をひとかけらだって創ってはいない。「コース」に世界はないと書いてあると言っただろう! ないものの一部を神が創るはずがないじゃないか。聖霊の意図は、世界があるという夢からきみたちを覚めさせることだけだよ!

J(イエス)が「世界と世界のあり方を否定しなさい。それをあなたにとって無意味なものとしなさい」と言ったのは、きみが見ているものは存在しない、ってことなんだよ。それはほんとうにはないのだから、無なんだ。無が何かを意味するわけがないだろう? 善にしろ悪にしろ、きみがそれに何らかの意味をもたせたら、きみは無を何ものかに変えようとしていることになる。きみがすべきことはただ一つ、無意味にすることなんだ。

ゲイリー すると、ぼくは心のなかにある罪悪感と恐怖のせいで、輪廻し続けているんだね。その罪悪感が癒され、隠された恐怖が消えたら、もう身体も世界も、この宇宙さえ必要なくなる!

 極めつけは、これだ。

――つまるところ、宇宙そのものが消えるべき症状である。

 まったくの現世否定&来世否定の言説は、反キリスト教的ですらある。(事実、あるキリスト者はコースを、「重大で潜在的に危険なキリスト教神学の歪曲」、「悪魔の誘惑」と批判したとか)
 むろん、現世や来世(別次元)での幸福な生き方を志向し指南する、先に上げたアメリカンスピリチュアリズムの伝統とも性格を異にする。
 いわゆる、解脱思想なのだ。
 そこが、「古代インドのアドヴァイタ・ヴェーダーンタ的な非二元論思想」とみなされるゆえんであり、また、キリスト教というより、涅槃を目的とする原始仏教に近い気がする。

 このような本(原著タイトルは The Disappearance of the Universe 「宇宙の消滅」)が全米でベストセラーになりうる当世に、驚きを覚える。

オリオン星雲


 最後に、『奇跡のコース』の要点を一言でまとめると、「ゆるし」に尽きる。
 他人も、自分も、責めるのは止めなさい。
 他人だけでなく、自分をも、ゆるしなさい。
 意識上、あるいは意識下を問わず、あらゆる罪悪感から解放されなさい。

 これはとても大切なメッセージだと思う。
 子供の頃の親との関係の中で、そして、これまでに出会った沢山の人との関係の中で、いかに自らが罪悪感を抱き、抱かされ、知らずに自分を責め続けていることか!
 心のどこかで、「こんな罪作りの自分が、幸福になってはいけない」と確信していることか!
 自分の中にある罪悪感を外側に投影し、他人や社会を裁いていることか!

 新型コロナウイルス騒動で、他者を責める言葉が、国内でも国外でもネット上でも飛び交っている現在、「ゆるし」の重要性はどれほど強調してもなおあまりある。


P.S. ツクシさん、本書を教えてくれて、ありがとう。



おすすめ度 : ★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損