1982年東映
146分

原作 宮尾登美子
脚本 高田宏治
音楽 菅野光亮

 27歳という若さでこの世を去った夏目雅子の出世作にして代表作。
 公開当時、「なめたらいかんぜよ」の迫力あるセリフ回しで話題になった。

 例によって勘違いしていたが、夏目の役は鬼龍院花子ではなくて、花子の姉の松恵であった。花子役は、高杉かほりという無名の、これ一作だけで消えた女優である。
 とはいえ、原作はどうか知らないが映画の主役は明らかに松恵であり、かつ、松恵の父で土佐の侠客、鬼龍院政五郎である。
 宮尾は、実在の人物と事件をモデルに、小説を書いたという。

 『吉原炎上』同様、セット、美術、撮影、脚本、演出、演技、すべてが高いレベルで拮抗している。
 五社監督のプロとしての矜持と良心が焼き付けられている。

 ここでも役者たちの演技合戦が最大の見どころである。

 政五郎を演じる仲代達矢は、おそらくは素顔の仲代自身とはまったく異なるであろう、気性の荒い鉄火肌のヤクザの親分を、入念な準備と迫真の演技で造り上げている。
 杉村春子に通じる役者魂。
 物語全体をしっかりと支え、引き締めている。

 若さと持てる力のすべてを投入した夏目の演技は、確かに素晴らしく、鮮やかな印象を残す。
 早逝しなかったら、今頃どんな女優になっていたことか?
 
 後半が夏目の独壇場だとすれば、前半は岩下志麻である。
 本作が松竹のトップ女優であった岩下の東映デビューで、当たり役となった“極道の妻”の端緒となった。
 貫禄といい、堂の入った仕草といい、凛とした美貌といい、内に秘めた女の情念といい、その後開花した『極妻』のエッセンスはすでに完成されている。
 松竹では、あるいは夫の篠田監督では引き出せなかった岩下の才能と魅力を、見事に開花させた五社監督の慧眼と演出力に讃嘆する。
 
 丹波哲郎の相変わらずの風格、ヌードも辞さずの夏木マリの熱演、チョイ役だが存在感ある小沢栄太郎など、脇も抜かりない。
 
 土佐の男の激しい気質、勝負事好きを象徴するものとして、最初のほうで迫力ある闘犬シーンが出てくる。
 土佐は14世紀の昔から闘犬で有名だったのである。

 動物愛護の声かまびすしい現在もやっているのだろうか?
 調べてみたら、戦後、観光の目玉として常時公開されていた時期もあったようだが、年々衰退し、今では「NPO認可法人 全土佐犬友好連合会」という団体が、年に2回ほど全国各地で大会を開催しているくらい。
 
 そういえば、土佐ではないが、四国遍路をしたときに愛媛県宇和島市近辺で、下のようなポスターが街角に貼られているのを見かけた。

闘牛


 闘犬ならぬ、闘牛である。
 闘牛士相手のスペインのそれとは違い、牛同士の力くらべである。
 見たかったが、一日遅れで間に合わなかった。
 こちらは、市内に専用の闘牛場があり、予約すれば観光もできるらしい。
 
 高知が闘犬、愛媛が闘牛――県民性を表しているようで興味深い。


宇和島のまち
愛媛県宇和島市
中央の森のてっぺんに小さく見えるのが宇和島城


おすすめ度 : ★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損