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2008年講談社

 遠未来SF。
 舞台は1000年先の日本。人類がとてつもない念力を持ち、神のごとく君臨する世界で、一見平和な共同体に襲いかかった悪夢のような惨劇を描く。

 上下巻で1000ページを超える大作であり、独特な世界の説明に費やされる最初の200ページは、「やや退屈」というネット上のコメントもあった。
 が、読み始めたらたちまち引き込まれ、時を忘れる面白さ。
 寝不足にならないよう、巻の変わり目や章の終わりで、ページをめくる手に強制停止かける必要があった。

 『悪の教典』、『硝子のハンマー』、『雀蜂』などで、貴志のスリルとサスペンスを盛り上げるストリーテリングの卓抜さ、幅広い知識と取材力、リアリティ生みだす描写力、冴えたブラックユーモア、読者へのサービス精神(ほどよいエロシーン挿入)などは存分に知っていた。
 虚構世界を描いたこのSFでは、上記に加え、さらに貴志の天才的な想像力と創造力に瞠目させられた。

 未来世界を生きる風変わりな動物や昆虫たちの生態描写が、とにかく面白い。
 蟻のように女王を中心とした社会をつくり人間に対してはひたすら従順なバケネズミとか、偽の巣と偽の卵をつくってそこに托卵するカッコウなどの卵を狙うカヤノスヅクリ(傑作!)とか、ウミウシから進化したミノシロという生き物を擬態しつつ野外生活し国立国会図書館つくば館の4000万冊という図書データを保存しているミノシロモドキとか、「どこからこんな発想が出てくるのか」と感心してしまった。
 このマニアックなまでの想像&創造力で連想されたのは、天下の奇書たる沼正三作『家畜人ヤプー』であった。(これは最大の賛辞であろう)

 この小説は、漫画やテレビアニメになっているらしいので、これらの生き物をヴィジュアルで確認してみたい。
 自分が小説家だったら、嫉妬で呼吸困難に陥りそうなエンターテインメントの傑作である。
 



おすすめ度 : ★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損