1966年大映
96分、白黒
脚本 星川清司
 
陸軍中野学校は、諜報や防諜、宣伝など秘密戦に関する教育や訓練を目的とした大日本帝国陸軍の軍学校で情報機関。かつての所在地は東京都中野区中野4丁目付近。偽装用の通称号は東部第33部隊。(ウィキペディア『陸軍中野学校』より抜粋)


 旧日本軍に実在した、いわゆる“スパイ”養成機関である。
 この映画のストーリー自体はむろんフィクションであるが、舞台となる陸軍中野学校の概要や授業風景、訓練生たちの心情などは、史実に近いものと思われる。
 映像にえげつないまでのリアルさを追求する増村保造監督の手によって、戦地の病院の従軍看護師を描いた『赤い天使』同様、戦時下の人間たちの異常な心理が赤裸々に描破されている。
 
 中野学校の一期生に選ばれ、最初は戸惑いながらも次第にスパイ活動の意義に目覚め、上官や仲間の影響を受けて使命感を身に着けていく一青年、三好次郎を演じる市川雷蔵が素晴らしい。
 『炎上』(原作は三島の『金閣寺』)の青年僧といい、『破戒』の瀬川丑松といい、十八番となった眠狂四郎シリーズといい、市川雷蔵ほど「暗い宿命を背負った虚無的な青年」を品格をもって演じた男優はいない。
 次点で、『安城家の舞踏会』や『浮雲』の森雅之、3位4位がなくて、5位に松山ケンイチあたりか。
 市川雷蔵にこそ、『砂の器』の犯人を演じてもらいたかった。
 
 次郎の婚約者役の小川真由美も素晴らしい。
 美しく色っぽいのはもちろん、芝居上手。
 小川こそ、女スパイにピッタリである。
 アイフル大作戦も、女ねずみ小僧も、黒蜥蜴も良かったが、彼女に一番演じてもらいたかったのは、峰不二子である。
 
 次郎の上官にして中野学校の設立者、草薙中佐を演じる加東大介も味がある。
 軍隊的な脅しや命令をいっさい用いることなしに、スパイという特殊任務に葛藤する訓練生たちの心を次第につかんで一つにまとめあげていく魅力ある上官――という難しい役柄を、不自然さや誇張を感じさせることなく演じている。
 40年の映画俳優歴をもつこの役者の出演作の量と質には驚嘆する。
 常連であった黒澤明をはじめ、山中貞雄、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男、今井正、内田吐夢など、錚々たる名匠に重用されている。
 かつて日本映画界に素晴らしいバイプレイヤーがいた証左の筆頭である。


加藤大介
加東大介


おすすめ度 : ★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損