1948年大映
94分、白黒
原作 北条秀司

 実在の棋士坂田三吉(1870-1946)の半生を描いた作品。
 バンツマこと阪東妻三郎の演技が見たくてレンタルした。
 
 一つの生き生きした魅力的キャラクターを完全に造り上げているバンツマの演技は、「さすが」というほかない。
 実際の坂田三吉とは、性格も語られているエピソードも異なるところが多いようだが、このバンツマの演技、および1962年リメイク時(主演:三國連太郎)の主題歌となった村田英雄歌唱の『王将』こそが、日本人の中の坂田三吉像を創り上げてしまったのではないか。
 フィクションが現実を凌駕してしまった典型例であろう。
 
 坂田三吉の宿命のライバルであった十三世名人関根金次郎を、芝居出身の名優滝沢修が演じている。
 これもまた見物である。
 物語の中だけでなく、撮影現場においても、伝説の名勝負が果たされている。
 
 三吉の妻小春役の水戸光子も素晴らしい。
 この人は、木下惠介監督『』(1948)で気を吐いていた。
 
 伊藤大輔の演出は、メリハリあって格調高く、映画の教科書のよう。
 坂田三吉が小春や子供たちと暮らしていた浪花の貧乏長屋の風情が、非常にリアルに描き出されている。
 長屋の立ち並ぶ崖の下を蒸気機関車が汽笛を鳴らして通過すると、白い煙がもうもうと立ち上る。
 その煙が長屋一帯を生活もままならぬほど覆い隠していく。
 本来なら、人が住むような場所じゃない。

 草履づくりから身を起こし名人位へ。
 坂田三吉は被差別部落のヒーローでもあったのだ。
 そこを踏まえて本作を見ると、より深い含蓄が味わえる。


王将





おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損