1964年文芸プロダクションにんじんくらぶ制作、松竹配給
白黒、96分

 加賀まりこと言えば“小悪魔”――と相場が決まっているが、その栄えある称号を確かなものにしたのは、この映画の冴子役ではなかろうか。
 それくらい本作での加賀は、美しく蠱惑的、かつ刹那的である。
 満たされることのない虚ろな心を抱え、極道たちの集う賭場に出没する正体不明の金持ちの令嬢を、はまり役と言ってよい抜群の感度で演じている。
 この役だけは、篠田監督の公私にわたるパートナーたる大女優・岩下志麻サマでも無理であろう。
 女優と作品との幸運な出会いがここにはある。

小悪魔

 相手役の池部良のニヒルな風情も良い。
 この男優にはこれまで注目したことがなかった。
 演技がうまい。
 高倉健や石原裕次郎のような華こそないものの、直観なのか計算づくなのかは知らず、役の理解が優れている。
 やさぐれた哲学者のような極道男、というキャラを見事に造形している。
 
 原作は石原慎太郎。
 生きることの価値と情熱を見いだせずに、虚無と退屈のうちに無軌道な生活を送る現代人の姿が描かれる。
 彼らが、生きている実感をその身に味わえるのは、仕事でも趣味でも恋愛でもセックスでもない。
 賭博やカーチェイスやクスリ、そして血で血を洗う抗争。
 全人生あるいは生命がかかった「丁か半か」ギリギリの一瞬だけが、その生に強度と濃度を与えてくれる。
 彼らはそれに酔う。
 賭けマージャンで職を失った黒川弘務検事長を想起した。

 闇社会を舞台とする映画、いわゆるフィルム・ノワールは、やはり白黒が映える。
 画面の陰影が、登場人物の心の陰影をあぶり出す。
 これは、篠田監督の最良の一本であろう。



おすすめ度 : ★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損