1958年スウェーデン
100分、白黒
スウェーデン語

 町から町へと巡業するいかがわしい魔術師ご一行が、とある町の領事館で引き起こすてんやわんやを描く喜劇。

 「この世に魔術なんてものはない。霊や予言や奇跡なんて、科学万能の時代に逆行する世迷言に過ぎない」
 と豪語し、魔術師の化けの皮をはがそうと意気込む医学博士の姿が、某大槻教授にダブって見える。
 この博士が、後半、見世物中の事故で死んだはずの魔術師に脅かされるシーンが秀逸。
 ヒッチコックばりの演出手腕と撮影技術は、こ難しい神学的テーマを追究したベルイマンのエンターテイナーとしての一面を実感させる。

 ベルイマン映画のどれにも言えることだが、役者たちの存在感が素晴らしい。
 架空のキャラクターを演じる役者たちにこれほどの存在感と生命力を与え、印象に残るシーンを紡ぐことのできた監督をほかに上げるなら、黒澤明を措いてなかろう。

 ハッピーエンドに終わる喜劇には違いないのだが、やはり、底に響いているのは神学的テーマである。
 「この世に科学で証明できないことはない」
 と言う博士(=大槻教授)は、つまるところ、神の存在を否定する立場に立たざるを得ないからだ。
 やっきになって魔術師の嘘を暴こうとする博士の執念は、「神が存在しない」ことを証明しようとする唯物論者の倨傲にほかならない。

 さて、魔術師はただの奇術師、道化、ペテン師に過ぎなかったのか?
 それとも・・・・・。

 その判断は観る者にまかされている。



おすすめ度 : ★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損