2018年アメリカ、イギリス
124分
原作 ジョン・ガイ著『Queen of Scots : The True Life of Mary Stuart』
原作 ジョン・ガイ著『Queen of Scots : The True Life of Mary Stuart』
王位をめぐる2人の女性を主人公とする物語と言えば、美内すずえ『ガラスの仮面』の劇中劇『ふたりの王女』を想起する人は多いだろう。
春の陽射しのように明るくあたたかい王女アルディス(=北島マヤ)と、冬将軍のように暗く冷徹な王女オリゲルド(=姫川亜弓)の対立を。そして、権謀術数を駆使し晴れて女王となったオリゲルドによって幽閉されたアルディスを。
美内すずえがあの魅力的な劇中劇を創作する際の元ネタとなったのが、16世紀に実在した2人の女王、エリザベス1世とメアリー・スチュアートの熾烈な対立である。前者はイングランドの、後者はスコットランドの女王。エリザベスの父親(ヘンリー8世)とメアリーの祖母とが、同じヘンリー7世を父とする姉弟という間柄にあった。
エリザベスとメアリーが対立し続けた一番の原因は、メアリーが「自分こそは正当なイングランドの王位継承者」と名乗り続けていたことにあった。
エリザベスとしては、むろん、面白くない。
そのうえに、ヘンリー8世がカトリック教会と袂を分かってイギリス国教会を創設したことに象徴されるように、当時のイングランドもスコットランドも、宗教改革および新旧キリスト教徒の対立の嵐が吹き荒れていた。
カトリック教徒のメアリーと、イギリス国教会で洗礼を受けたエリザベスは、両派の激しい攻防の矢面に立たされ、宗教戦争に巻き込まれざるを得なかった。(教皇庁はむろんメアリーの正統性を支持した)
二人は、生まれながらにして対立すべく運命づけられていたのである。
エリザベスとしては、むろん、面白くない。
そのうえに、ヘンリー8世がカトリック教会と袂を分かってイギリス国教会を創設したことに象徴されるように、当時のイングランドもスコットランドも、宗教改革および新旧キリスト教徒の対立の嵐が吹き荒れていた。
カトリック教徒のメアリーと、イギリス国教会で洗礼を受けたエリザベスは、両派の激しい攻防の矢面に立たされ、宗教戦争に巻き込まれざるを得なかった。(教皇庁はむろんメアリーの正統性を支持した)
二人は、生まれながらにして対立すべく運命づけられていたのである。
君主としても、女性としても、二人は対照的な生涯を送った。
スペインの無敵艦隊を破り、絶対君主として40年以上イングランドを統治した歴史の勝者、エリザベス。
夫の死によってフランス王妃の座を失い、陰謀により故国スコットランドの王座も追われ、エリザベスの庇護を求めてイングランドに亡命するも、そこで19年間幽閉されたあげく処刑されたメアリー。
処女王と綽名され、結婚もせず子供も持たず、国家に自らを捧げたエリザベス。
政略結婚を退けて自由恋愛し、生涯3人の夫を持ち、子供(のちのジェームズ1世)を生んだメアリー。
加えて、30歳のとき天然痘にかかって美貌を失ったエリザベス。
フランス宮廷仕込みの洗練とエレガンスで生来の美貌をさらに輝かせたメアリー。
ことごとく対照的な女王たちの対立劇を後世の創作者たちが見逃すはずはなく、これまでに舞台や小説や映画やオペラなど数々の作品のモチーフとなってきた。
ソルティがもっとも感銘を受けたのは、ドニゼッティ作曲のオペラ『マリア・ストゥアルダ』である。(メアリー・スチュアートのイタリア語読み)
このオペラはまさにエリザベート(エリザベス)とマリア(メアリー)の対決を軸に据えていて、クライマックスでは、文通はしていたものの実際には一度も会ったことがない両者を、マリアの幽閉されているイングランドの城内でまみえさせるという、まさに美内の『ふたりの王女』さながらの名場面が展開される。
おのれを幽閉している相手に助命を乞わなければならないマリアは、政治的敗者として屈辱を味わう。が、マリアを助けようと陰で骨を折っているのがエリザベートの思い人のレスター伯であってみれば、エリザベートもまた恋の敗者として屈辱を味わせられる。
案の定、会うや早々、2人は互いを「売女」と罵倒し、会合は決裂する。
全曲中、もっともスリリングで固唾をのんで視聴するシーンである。
このオペラが上演された当初、エリザベート役のソプラノ歌手とマリア役のメゾソプラノ歌手が役にのめり込み過ぎて、互いの悪口を本気にとってしまい、舞台上で乱闘騒ぎを起こし、業を煮やしたドニゼッティが「二人とも売女だ!」と口走ったという、楽しいエピソードが残されている。
案の定、会うや早々、2人は互いを「売女」と罵倒し、会合は決裂する。
全曲中、もっともスリリングで固唾をのんで視聴するシーンである。
このオペラが上演された当初、エリザベート役のソプラノ歌手とマリア役のメゾソプラノ歌手が役にのめり込み過ぎて、互いの悪口を本気にとってしまい、舞台上で乱闘騒ぎを起こし、業を煮やしたドニゼッティが「二人とも売女だ!」と口走ったという、楽しいエピソードが残されている。
この映画でもまた、エリザベスとメアリーの生涯ただ一度の会合を設定し、そのクライマックスに向けて、2人の女王の対照的な生き方が描かれていく。
原題に Mary Queen of Scots 「スコットランドのメアリー女王」とある通り、主筋はフランスからスコットランドに女王として戻り、結婚および出産、陰謀によって王位を奪われ国外逃亡、イングランドで処刑されるまでのメアリーの苦難の半生である。
メアリーを演じるシアーシャ・ローナンの気品ある柔らかな美しさは、まさにフランスの貴婦人そのもので魅了される。
友人でもあり侍女でもある4人の娘たちとの女子会ノリのふざけ合いや、経血の手当てをするシーン、ゲイの家臣に対する寛容な振る舞いなどにフェミニズム的感性を強く感じたが、なるほどジョージー・ルークは女性監督であった。
メアリーは、最初から最後まで、“精神的には自由な”一人の女として描かれる。
原題に Mary Queen of Scots 「スコットランドのメアリー女王」とある通り、主筋はフランスからスコットランドに女王として戻り、結婚および出産、陰謀によって王位を奪われ国外逃亡、イングランドで処刑されるまでのメアリーの苦難の半生である。
メアリーを演じるシアーシャ・ローナンの気品ある柔らかな美しさは、まさにフランスの貴婦人そのもので魅了される。
友人でもあり侍女でもある4人の娘たちとの女子会ノリのふざけ合いや、経血の手当てをするシーン、ゲイの家臣に対する寛容な振る舞いなどにフェミニズム的感性を強く感じたが、なるほどジョージー・ルークは女性監督であった。
メアリーは、最初から最後まで、“精神的には自由な”一人の女として描かれる。
一方のエリザベスは、イングランドと自己の地位を守るために女としての幸福を投げ捨て、男の論理と非情を身にまとう。
政治的勝者にはなったものの、一人の生身の女として、メアリーに対する嫉妬と引け目が隠せない。
譬えれば、男社会の中で孤独に闘い抜き、結婚生活も母たることも諦め、功成り名を遂げた女社長が、恋愛結婚して母となったものの最後は生活保護の「おひとりさま」になった、かつての同級生に対して抱くような思い・・・(よ~、わからんか)。
ある意味、エリザベスもメアリーも、男社会の犠牲者という点では等しく敗者なのである。
エリザベスは、在位長くして地位が安定するにつれて、孤独と猜疑心と憂愁の色を深めていく。
天然痘の後遺症によって永遠に失われた容姿を、ピエロのような白粉の厚塗りと派手な赤毛のカツラで隠したその姿は、まるでホアキン・フェニックスの『ジョーカー』の誕生さながら。
そう、孤独と絶望とがエリザベスをいつのまにか怪物にしたのである。
彼女もまた、自由のきかない「囚われ人」に過ぎなかった。
マーゴット・ロビーは、女優生命をかけたような渾身の演技を披露している。
脚本、音楽、映像、役者の演技、美術、どれも素晴らしく、見ごたえある時代劇に仕上がっていて、あっという間に16世紀英国に引き込まれた。
当時の時代背景や2人の女王の関係をざっと予習してから観るのがベター。
おすすめ度 : ★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損