80歳になる母親がこのところ、「スマホが欲しい」と言い続けていたものだから、先日、隣り駅にある大型家電店に一緒に出かけた。
 その場で契約手続きし、本体購入した。
 ネット申し込みにしなかったのは、購入後、店のスタッフに初期設定してもらって、その場ですぐに使用できるようにしてもらいたかったのと、故障や紛失等があった場合に頼れる店舗が近くにあったほうが、パソコンに疎い母親にとっては安心だろうと思ったからである。

 契約先は、ソルティと同じ某電気通信会社にした。
 同じ会社の出している同じ機種であれば、母親に基本的な使い方の説明ができるし、「こんなことしてみたい」という要望を彼女が訴えたときに、自分のスマホでまず「できるかどうか」の操作確認できる。(別の会社の機種だと、尋ねられたソルティが困る)
 また、同じ通信会社であれば、支払いや解約の仕組みも把握できるし、なんらかのトラブルがあったとき、自分がネット等で調べて母親の代わりに対応しやすい。
 残念ながら、というより案の定、一年半前に購入したソルティの機種はすでに扱われておらず、バージョンアップされたものが提示された。
 それでも、別の会社の機種よりは勝手がわかるはず(と思う)。
 
 初期設定サービスやら、安心サービス(保障)やら、画面の強度を高めるコーティング処理やら、手続き費用やら、しめて3万円ほどかかった。
 月々の支払い費用(銀行口座から引き落とし)は、1500円程度である。
 すなわち、格安スマホ。
 
 家に帰ってさっそく充電すると、自宅の Wi-Fi 設定をし、標準画面をシンプルでわかりやすい「シルバー(高齢者)モード」にし、母親が普段もっとも使うであろうアプリボタンのみを標示させた。
 つまり、電話機能、メール機能、カメラ、音声で検索する機能、地図、電卓、万歩計、Yahoo Japan のホーム画面などである。(自分と同じ・・・)
 
 もとから使っている大手通信会社のフィーチャーフォン、いわゆるガラケーはそのまま継続する。
 なので、090の電話番号やメールアドレス、住所録のデータを、スマホに移し替える必要はなかった。
 いわゆる、二台使いだ。
 物を調べたり、ゲームをしたり、写真を撮ったりする目的以外にはスマホを使用しない人は、このやり方が一番賢いとソルティは思う。(自分もそうしている)
 むろん、母親も、SNS にもネットバンキングにもネットショッピングにも PayPay(ペイペイ)にもモバイルスイカにも(いまのところ)興味がないので、使い勝手が良くてバッテリーの長持ちするガラケーをむざむざ放棄する気は、はじめから持っていなかったようだ。
 3G 携帯サービスが停止される2022年3月までは二刀流でいけるだろう。

 
モバイルスイカ


 
 そんなこんなで齢80にしてスマホデビューを果たした母親であるが、ソルティは一連の手続きを進めるなかで、なんだか物悲しい思いがしたのである。
 
 一つは、いつも IT 関連機器を買いに行くときに感じる物悲しさ。
 ずらりと並んだ商品の説明 POPを読んでも、もうほとんど理解不能。
 たとえば、冷蔵庫ならまだ、2ドアか3ドアか、容量はどれくらいか、自動製氷機能がついているかいないか、扉は右開きか左開きか観音開きか、省エネ基準はどうか、パーシャルか否か、除菌機能はあるか・・・・といった各種機能の説明は読んでもわかるし、店員に説明されてもおおむね理解できる。(それにしても、要らない機能ばかりと思う。差別化もここまでくれば、かえって煩わしい)
 これがノートパソコンだと、〇〇世代がどうとか、CPU がいくつとか、メモリがどれくらいかとか、ストレージがなんたらかんたらとか、OS は何かとか、搭載されているソフトの種類とか、端子はどうなっているかとか・・・・説明書きを読んでも、店員に説明されても、よく理解できないことばかり。
 
 ソルティはやはり、「高額商品はそれなりに機能や性能を理解して、納得してから買いたい」という、当たり前の(一昔前の?)生活感覚の持ち主なので、理解できないものを買わなければならないという状況に置かれると、とたんに物悲しくなってくるのである。
 自分の IT 音痴が悲しかったり、悔しかったりするわけではない。
 そういう平均的な庶民の感覚を置き去りにしたところで、どんどん進んでいく IT 社会の非人間性が悲しいのである。(なんて負け惜しみか)
 
 上記のスマホの件でもそうだが、機種のバージョンアップと聞くと、「もっと性能が上がって使いやすくなった、便利になった、いろいろできるようになった」と一般に思うけれど、はっきり言って錯覚である。
 バージョンアップしない昔のほうがずっと使いやすかった、と思うことはたびたびある。(たとえば、ソルティはマイクロソフト Office は2003が一番使いやすかった。それ以降のものは、機能が増えすぎて、かえって使いづらい)
 
 もう一つの物悲しさは、こういった庶民とくに高齢者には理解しがたい横文字や専門用語の羅列で相手をけむに巻いて、いろいろな付属品なりオプションサービスなりを合わせて購入させようとする店員の姿勢に接するときである。
 今回も、見るからに IT 音痴であることが明白な母親に対し、店員は専門用語を並べて、オプションサービスを購入させたがった。
 むろん、それが商売であり、店長からもそのようなセールストークを指示されているのだろう。
 ここ最近のコロナ騒ぎで来店者は減ったであろうから、少しでも売り上げを増やしたい気持ちは理解できなくもない。
 
 しかし、相手が説明内容を理解できて、メリットデメリットを比較検討した上で、納得して購入するのならともかく、IT 音痴を見越した上で売りつけるのはいかがなものだろう?
 ソルティが隣に座って目を光らせていなければ、おそらく母親は店員に言われるがままに様々なオプション購入をしていただろう。(嗤えるのは、ソルティ自身も立て板に水のような店員の説明をほとんど理解できなかった点である)
 
 高齢者や IT 音痴の人の IT 使用環境をサポートする NPO があればいいなあ~、とつい思った次第である。
 
老人とパソコン