2014年朝日新聞出版
『枕草子のたくらみ』が面白かったので、同じ著者の今度は『源氏物語』をテーマにしたエッセイを読んでみた。
『源氏物語』54帖のあらすじを紹介しながら、平安貴族社会の風俗や慣例や人々の価値観を、同時代の様々な古典文学からのエピソードをも引いて、通勤電車内で読めるような軽いタッチで教えてくれる。
それらを知ることでまた、紫式部と同時代を生き、『源氏』の書写本を手にした読者の心に寄り添い、より深く、より面白く、『源氏』を読むことができる。
たとえば、「秘密が筒抜けの寝殿造」、「平安京ミステリーゾーン」、「伊勢の斎宮と賀茂の斎院の違い」、「女性を三途の川で待つ“初開の男”とはなんぞや?」、「ヒゲ面はもてなかった」、「平安の医者と病」、「親王という生き方」、「平安の葬儀」、「平安の不動産事情」、「平安貴族の勤怠管理システム」等々、『源氏』ファンのみならず、王朝文学好きにとって、知って得する雑学のオンパレードである。
また、山本は、紫式部が『源氏物語』を執筆した動機の一つとして、一条天皇の中宮・定子の悲惨な晩年をリアルタイムで目撃したことを上げ、一条天皇と定子との宿命的な恋愛こそが、『源氏』の桐壷帝と桐壺更衣のそれのモデルとなった、という説を掲げている。
紫式部自身は、同じ一条天皇の后となった藤原道長の娘・彰子の女房であったので、「ライバルのお姫様のことを題材にするかなあ~」と単純に思いそうだが、実は、紫式部が『源氏』の執筆に手を染めたのは、彰子に仕えるよりも前のこと。
それなら、十分あり得る。

ポプラ社の古典文学全集
紫式部自身は、同じ一条天皇の后となった藤原道長の娘・彰子の女房であったので、「ライバルのお姫様のことを題材にするかなあ~」と単純に思いそうだが、実は、紫式部が『源氏』の執筆に手を染めたのは、彰子に仕えるよりも前のこと。
それなら、十分あり得る。

ポプラ社の古典文学全集
さて、ソルティと『源氏』との出会いは、小学校高学年のとき。
親に買ってもらったポプラ社の中学・高校生向け『古典文学全集』(上画像)のシリーズ中の一冊であった。
編者(訳)は国文学者の塩田良平。
同じシリーズの『平家物語』が平氏滅亡の話なのに、なんで『源氏物語』には源頼朝や牛若丸こと義経や弁慶、そして北条政子は出てこないんだろう?――と不思議に思った。
大人の色恋沙汰などわかるはずもなく、ましてや「もののあはれ」など爪の先ほども感じ取れなかったけれど、なぜか面白くて、はまった。
ロスト・セレブ・コンプレックスはこの頃から発動していたのだ。
その後、高校時代の古典の授業をはさみ、大学生になってから「与謝野源氏」を、社会人になって「谷崎源氏」を読んだ。
むろん、前者は情熱の歌人・与謝野晶子の、後者は究極の女性崇拝者・谷崎潤一郎による現代語訳である。
この二人の輝かしい文豪による『源氏』を読んでしまうと、それ以降の現代作家による『源氏』にはなかなか手が出せなかった。
橋本治の『窯変源氏物語』(1993年中央公論社)には執筆時より惹かれるものがあったが、完結してから読もうと待っていたところ、完結したらあまりにも長いので、怖じて手が出せないでいる。
ここ最近、また『源氏物語』の新訳の刊行が続いている。
当ブログでその著書『本当はエロかった昔の日本』ほかを紹介した大塚ひかり(2010年ちくま文庫)、リンボウ先生こと林望(2013年祥伝社)、流行作家の角田光代(2020年河出書房新社)などである。
大塚や山本の著作で知られるように、新しい知見や視点からの文学研究の成果が蓄積されている。
また、20代で読んだ『源氏』と、50代で読む『源氏』は違って然るべきだろう。
そろそろ新訳に挑戦してみよう。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
親に買ってもらったポプラ社の中学・高校生向け『古典文学全集』(上画像)のシリーズ中の一冊であった。
編者(訳)は国文学者の塩田良平。
同じシリーズの『平家物語』が平氏滅亡の話なのに、なんで『源氏物語』には源頼朝や牛若丸こと義経や弁慶、そして北条政子は出てこないんだろう?――と不思議に思った。
大人の色恋沙汰などわかるはずもなく、ましてや「もののあはれ」など爪の先ほども感じ取れなかったけれど、なぜか面白くて、はまった。
ロスト・セレブ・コンプレックスはこの頃から発動していたのだ。
その後、高校時代の古典の授業をはさみ、大学生になってから「与謝野源氏」を、社会人になって「谷崎源氏」を読んだ。
むろん、前者は情熱の歌人・与謝野晶子の、後者は究極の女性崇拝者・谷崎潤一郎による現代語訳である。
この二人の輝かしい文豪による『源氏』を読んでしまうと、それ以降の現代作家による『源氏』にはなかなか手が出せなかった。
橋本治の『窯変源氏物語』(1993年中央公論社)には執筆時より惹かれるものがあったが、完結してから読もうと待っていたところ、完結したらあまりにも長いので、怖じて手が出せないでいる。
ここ最近、また『源氏物語』の新訳の刊行が続いている。
当ブログでその著書『本当はエロかった昔の日本』ほかを紹介した大塚ひかり(2010年ちくま文庫)、リンボウ先生こと林望(2013年祥伝社)、流行作家の角田光代(2020年河出書房新社)などである。
大塚や山本の著作で知られるように、新しい知見や視点からの文学研究の成果が蓄積されている。
また、20代で読んだ『源氏』と、50代で読む『源氏』は違って然るべきだろう。
そろそろ新訳に挑戦してみよう。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損