1937年日本、ドイツ
106分、白黒
制作年の1937年とは、日独伊三国防共協定が締結された年であり、日本が満蒙開拓に力を入れていた頃である。
そんな時代の日独合作であるから、当然、国策映画である。
ドイツの観客に対しては、日本という国や文化および日本人について知ってもらい好印象を与えること、日本の満州支配について理解を持ってもらうこと、が狙われている。ドイツとは、ナチスドイツである。
日本の観客に対しては、日本の風土や文化の素晴らしさ、勤勉や礼節や親孝行や愛国心などの美徳、天皇への忠誠を訴えかけ、やはり満州開拓(植民地化)の必要性を説くものとなっている。日本とは、大日本帝国である。
時代と制作背景を伝えるシーンがある。
協同監督として日本からは伊丹万作(伊丹十三監督の父親)が関わっているのだが、制作上の行き違いから両監督の対立となり、結局、ファンク版と伊丹版の二つのフィルムが作られた。現在、観ることのできるのはファンク版のほうである。
そのことが、かえってこの映画をたいへん興味深い、愉快なものにしている。
ドイツ人ファンクがはじめて見た日本という国、日本人という国民が、その驚きと感動のままに誇張して描き出されているのである。
一昔前の西洋人がイメージした典型的な日本のオンパレード。その徹底した「ザ・日本」ぶりに、国策映画と知りながらも、笑いがこみあげてくる。
富士山、 桜吹雪、 相撲、 芸者、 三味線、 日本舞踊、 お能、 お茶、 虚無僧、 キモノ、 日本髪、 藁ぶき屋根、 水田、 棚田、 長襦袢、 地震、 ひな人形、 なぎなた、 剣道、 厳島神社、 お寺、 仏像、 神道、 書道、 たたみ、 襖、 布団、 囲炉裏、 武士道、 浅間山、 鉦つき行者、 蝶々夫人・・・・。
こうした日本的表象が、時も場所もいっさい脈絡なく、縦横無尽に(でたらめに)次々と繰り出されるものだから、日本人が見たらツッコミどころ満載のへんてこりんになっている。
たとえば、厳島神社で鹿と遊んでいる振り袖姿の少女が、女中に呼ばれて池のある日本庭園を通り抜けると、東京にある日本家屋のすまいにつながるという、ゴダールびっくりのモンタージュである。
ストーリーの奇想天外もすごい。
ドイツに留学した男・輝雄(=小杉勇)は、個人主義を知ってすっかり西欧かぶれしてしまい、帰国したのち、親が決めた婚約者・光子(=原節子)をふる。
絶望した光子は自害する決心をする。
しかし輝雄は日本の風土や文化の良さに目が開かれ、周囲の説得を受け、家や親を守ることの大切さに気づく。
光子との結婚を決めた輝雄は、光子の家に向かう。
が、光子は書置きを残し、婚礼衣装を手に、浅間山に向かっていた。
クライマックスは、噴火中の浅間山で、靴下だけの輝雄が、死に場所を求めている光子を探し回るシーンである。
なぜ火山なのか不思議に思うところだが、これはファンク監督が山岳映画を得意としていたからである。
実際、なかなか迫力あるスぺクタルな登山シーンで、「いや、二人とも山頂に達する前に有毒ガスでやられるでしょ?」というツッコミをものともしない。
振り袖姿に草履ばきのまま、汚れもせずに頂上付近まで登ったナデシコ・ジャパン光子の強靭さには、ドイツの観客たちは恐れ入ったはずだ。
火山礫が飛び交い、火山灰が降り注ぎ、溶岩が流れ、地震で民家がぺちゃんこに倒壊する中、無事ふもとまで戻った二人は、結婚して子供もできて、新天地満州で幸福に暮らす。
伊丹万作をはじめとする日本側スタッフが異議を申し立てたくなったのも無理はないと思う。
が、この破壊的な面白さは日本人には出せなかっただろう。
日本を知らないドイツの観客を念頭において、日本をよく知らないドイツの監督が撮ったからこそ、ここまで奇想天外で自由な発想が可能だったのだ。
そしてまた、当時16歳の原節子の破壊的魅力もしかり。
とんでもない美少女ぶりである。
同じ年齢時の吉永小百合や後藤久美子、いわんや橋本環奈も、なにするものぞ。
生来の造形的な美しさのみならず、原節子が内に秘めていたどこか刹那的な空虚のようなものを、ファンク監督は見抜いて引き出している。
それは、後年、原が小津安二郎監督と出会って、はじめて十全に引き出されたものである。
ただの美少女タレント、美人女優には決して終わらないであろうことを、このフィルムは予告してあまりある。
ほかにも、日本のハリウッドスター第1号たる早川雪洲が原の父親役で出演、音楽を山田耕筰、特撮技術を円谷英二が担当しているのも見逃せない。
いろんな意味で永久保存にふさわしい第一級の珍品映画である。
おすすめ度 : ★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損