2019年韓国
132分
カンヌ映画祭パルム・ドールと米国アカデミー賞作品賞を受賞した話題のブラックコメディ&スリラー。
カンヌはともかくとして、オスカー作品賞はなぜ?――と思った。
韓国語作品で制作も韓国だから、外国語映画賞なら分かる。日本映画でもかなり前にモックン主演『おくりびと』(2008年滝田洋二郎監督)が受賞している。
なぜに作品賞が可能なの?
調べてみたら、アカデミー作品賞の選考基準は以下の通りであった。
原則として前年の1年間にノミネート条件(ロサンゼルス郡内の映画館で連続7日以上の期間で最低1日に3回以上上映されていて、有料で公開された40分以上の長さの作品で、劇場公開以前にテレビ放送、ネット配信、ビデオ発売などで公開されている作品を除く、など)を満たした映画作品について扱われる。(ウィキペディア『アカデミー賞』より抜粋)
つまり、米国以外の国が制作した英語以外の作品でもOKなのだ。
『パラサイト』は作品の出来+配給元の力量により、上記の条件を満たし得たのであろう。
ともあれ、米国アカデミー賞の長い歴史において、英語以外の作品が作品賞を受賞したのは初めてだというから、まぎれもない快挙である。
この快挙には、やはり社会世相というものが影響しているのは間違いなかろう。
というのも、本作のテーマは同じ2019年に公開され話題となった『ジョーカー』、『 Us アス』と共通するからであり、はからずも今年になってそれら2作品をミックスして現実化したかのような事件――白人警官の暴力による黒人男性窒息死に端を発しアメリカ全土に広がった暴動――の根っこに潜むひずみを描いているからである。
すなわち、格差社会である。
こうした流れを見ていると、映画という表現媒体のもつ先見性というか、嗅覚の鋭さというか、時代を読む力というものに改めて驚かざるを得ない。
いや、映画に限らず、文学でも絵画でも音楽でも舞踏でも、すぐれた芸術作品は、大衆の無意識や時代の行方を敏感を読んで、先取って表現するものなのだ。
実際この映画は、コメディとしてもスリラーとしても社会ドラマとしてもよくできている。
笑って、ハラハラして、ドキドキして、衝撃を受け、最後に重たい気分になり、鑑賞後は深く考えさせられる。
一級のエンターテインメントでありながら、格差社会の不条理を鋭く打つ力作である。
韓国を代表する名優、ソン・ガンホの演技が素晴らしい。
格差社会の底辺をしぶとくも楽天的に生きる一家の、愛情深い父親を見事に演じている。
彼の吐くセリフが深い。
大雨のため一家の住む貧民街の半地下の家々が水浸しになり、住民たちは近くの体育館に避難し、夜を過ごす。
製材所に置かれた丸太のように、多くの避難民ととともに体育館の床に並んで横たわりながら、「これからどうするのか?」と聞く息子に対して、父親は語る。
ノープランが一番だ。
計画を立てると必ず、人生そのとおりにいかない。
皆を見てみろ。今日体育館に泊まるって計画したと思うか?
でもどうだ、皆床にころがっている。
だから人は無計画なほうがいい。
計画がなければ間違いもない。最初から計画を持たなければ、何が起きても関係ない。
人を殺そうが、国を裏切ろうが、いっさい関係ない。
格差社会の底辺から這い上がることもままならず、底が抜けた絶望の果てに生まれた人生哲学。
アメリカも、韓国も、日本も、国籍に関係ない箴言である。
おすすめ度 : ★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損