2018年9月下旬のある日、四国遍路88札所と別格20札所、あわせて108の霊場を歩いてめぐる旅に出た。これはその記録である。
 各札所には御詠歌と呼ばれる短歌がある。お寺の名前を歌の中に盛り込み、法の尊さや御仏のありがたさを説いたものが多い。
 ここでは、やはり寺の名前を盛り込みながら、道中の思い出や札所の印象などをオリジナル御詠歌にして詠んでみた。


【香川県】


いやだに寺から宿に帰る列車
JR予讃線からのぞむ瀬戸内海
(前日歩き終えたところまで移動中)



76番札所: 鶏足山 金倉寺 (けいそくざん こんぞうじ)

76番
 金の倉 銀の倉より 貴きは
 困れる者への 陰なる配慮

御本尊: 薬師如来
本歌 : まことにも 神仏僧をひらくれば 真言加持の 不思議なりけり
コメント: 弘法大師の姪の子供で天台宗の僧となった智証大師(円珍)誕生の地――という謂れよりも印象に刻まれたのは、境内にある野宿遍路のための宿泊設備の整った休憩所、および納経所に掲示してあった「遍路に行ったまま帰ってこない夫」に呼びかける神奈川在住の妻の手紙だった。一体なにがあったのか?
【次の札所まで7.0㌔】

76番金倉寺境内
境内


76番金倉寺智証大師像
智証大師円珍
延暦寺第5代座主となった。真言宗でなく天台宗を選んだ理由が気になる。


76番金倉寺(へんろ小屋)
至れり尽くせりの遍路小屋


76番金倉寺(夫への手紙)
今はもう恵子さんのもとに戻っているだろうか?


76番金倉寺境内2
参道


多度津駅
多度津駅
JR予讃線とJR土讃線が乗り入れる
この駅のコインローカーには世話になった
重いリュックを預け、身軽に歩くは遍路の知恵


海岸寺への道1
多度津港
多度津駅より海沿いの道を西へ向かう


海岸寺への道2(仏母院)
仏母院
弘法大師の母・玉依御前(たまよりごぜん)の屋敷跡に建てられた


海岸寺への道2(えな塚)
胞衣(えな)塚
大師の胞衣とへその緒が納められている


海岸寺への道(田園風景)
仏母院周辺の風景


海岸寺への道(河口)
海岸寺はその名の通り海を背にしている



別格18番札所:経納山 海岸寺 (のうきょうざん かいがんじ)

18番
 かいがん(開眼)し 最初に見るは 母の顔
 聖人もまた 人の子なれば

ご本尊: 正観音 弘法大師誕生佛
本歌 : せとのきし まなこやひらく かいがんじ よろこびみちぬ 身も心にも
コメント: 札所奥の院に弘法大師の産屋があったとされる。75番善通寺(佐伯家屋敷跡地)との間で、どっちが大師生誕の地なのかに関する長い間の論争があり、いまだ決着を見ていないようだ。近くには、大師の母親・玉依御前の実家があったらしく、そこはいま仏母院という寺になっている。また、大師の胞衣(えな)を埋めたとされる御胞衣塚もある。つまり、父の家で生まれたのか、それとも母の里なのかということだ。穏やかな海を臨む平和な里山の風景は聖人誕生の地にふさわしいとソルティは思ったが、真実はいかに。
仁王門に当地出身の二人の力士像が立っているのにはたまげた。
【次の札所まで2.9㌔】

海岸寺山門
山門
仁王像の代わりに郷土出身の力士が立つ
左:大豪久照 右:琴ヶ濱貞雄


開眼寺力士2海岸寺力士1















海岸寺本堂
本堂


海岸寺大師堂
大師堂は本堂から離れた静かな奥の院にある


多度津駅跨線橋より
多度津駅の跨線橋より善通寺方面を望む
讃岐は小山と畑とため池の国



77番札所: 桑多山 道隆寺 (そうたざん どうりゅうじ)

77番
 道隆の 名に関白を 思いしが
 藤にはあらで 桑のわけあり

御本尊: 薬師如来
本歌 : ねがいをば 仏道隆にいりはてて 菩提の月を 見まくほしさに
コメント: 藤原道長の兄にして中宮定子の父である関白・道隆のいわれでもあるお寺かと思ったら、そうではなかった。この地の豪族だった和気道隆(わけのみちたか)が、光る桑の大木から薬師如来を彫像したという縁起がある。
【次の札所まで7.2㌔】


道隆寺山門
山門


道隆寺境内
境内


道隆寺衛門三郎
ここにも衛門のサブちゃんが!
(かなり造りが雑)


道隆寺納経所飾り
納経所に飾られていた手作り小物に癒される


丸亀城
丸亀城(蓬莱城)
室町時代初期に細川頼之の重臣・奈良元安が築城す


78への道(川と山)
土器川と讃岐富士の異名をもつ飯野山(422m)



78番札所: 仏光山 郷照寺 (ぶっこうざん ごうしょうじ)

78番
 大師堂 ごう天井に 咲く花に
 がっしょう(合掌)一遍 厄も吹き飛ぶ

御本尊: 阿弥陀如来
本歌 : 踊り跳ね 念仏申す 道場寺 拍子をそろえ 鉦をうつなり
コメント: 四国霊場唯一の時宗(開祖:一遍)のお寺。時宗と真言宗の2つの宗派が共存しているという。かたや踊り念仏の浄土易行、かたや真言三密、ほとんど真逆じゃないか。一体どうやって折り合いをつけているのだろう?――と不思議に思うが、本命は厄除け・厄払いにあるらしい。
大師堂入口の格天井(ごうてんじょう)の花の彫刻が美しかった。
【次の札所まで5.9㌔】


郷照寺本堂
本堂
へんろより一般参拝者(とくに夫婦)が多かった


郷照寺格天井
大師堂の格天井


郷照寺境内からの風景
境内から眺める宇多津のまち
瀬戸大橋のたもとにある


79への道(坂出の商店街)
四国を回っていて、このような光景をいくつ見たことか!


79への道(やそばの水)
八十場(やそば)の泉


79への道(やそばの水2)
八十場名物・ところてん
残念、定休日だった



79番札所: 金華山 天皇寺 (きんかざん てんのうじ)

79番
 世を呪い 魔王となりし 天皇の
 怒り冷やせよ 八十場(やそば)の泉

御本尊: 十一面観音菩薩
本歌 : 十楽の うき世の中をたづぬべし 天皇さえも さすらいぞする
コメント: 保元の乱に敗れ、讃岐に流された崇徳天皇崩御の地。腐敗防止のため、その遺体は八十場(やそば)の水に数日間漬けられたと言う。その清水を使ったところてんの名店が池の傍らにあった。
崇徳天皇は日本三大怨霊の一人として恐れられているが、道中出会った地元の人の話から察するに当地ではまた違った印象で遇されているようだ。別バージョン⇒「世を呪い 魔王となりし 天皇よ 怒りなくせば ところてんなり」
【次の札所まで6.6㌔】


79への道(白峯宮)
崇徳天皇を祀る白峯宮
お墓は81番白峯寺にある


天皇寺本堂
同じ境内にある天皇寺本堂


白峯宮鳥居



80への道(カタツムリの富士登山)
へんろ道にあるお店の看板
ふと大事なことを気づかせてくれる



80番札所: 白牛山 国分寺 (はくぎゅうざん こくぶんじ)

80番
 八十(やっと)来た! ここが最後の国分寺
 たかまつ生ふる 参道をゆく

御本尊: 千手観世音菩薩
本歌 : 国を分け 野山をしのぎ 寺々に まいれる人を 助けましませ
コメント: 四国各県に一つずつある国分寺。香川県は高松市内にある。
“国分寺”のある場所はかつて最も賑わいだ界隈だったはず。が、今やどこも中心地から離れた寂しい場所となっている。東京の国分寺跡(武蔵国分寺)も閑静な住宅地となっている。
【次の札所まで6.5㌔】


国分寺山門
山門


国分寺参道
松が立ち並ぶ参道


国分寺本堂
本堂


国分寺大師堂
大師堂と納経所は一緒
中はお守りやお数珠などが売られ、昔の駄菓子屋のような印象
80番を打って、気持ち的に秒読みに入った



四国の白地図第17回


CraftMAPの白地図を使用しています。より詳しい四国地図を見たい方は、こちら(地図蔵)を参照ください。  



次回予告
崇徳天皇御陵&紅葉の景勝、五色台に参ります