1951年刊行
2014年創元推理文庫 

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 『殺す風』、『狙った獣』に次いで3作目のマーガレット・ミラー。
 
 70年前のミステリーで、やや意外な犯人こそあれど、読者を驚かす奇抜なトリックも名探偵の有無を言わさぬ見事な推理もない。
 心胆寒からしめる残虐描写も派手なアクションシーンもない。
 なのに、読み始めるやぐいぐい引き込まれて、ページをめくる手が止まらなくなる。
 その秘密は、ミラーの人間観察の怖いほどの鋭さ、ある種の意地の悪さを感じさせる描写にある。
 英国ミステリー作家のクリスチアナ・ブランドに似ている。

 ウーマンリブ前の50年代アメリカにおける女性の抑圧と葛藤と気概が描かれているところも特徴の一つ。(過去100年における女性の意識の変化は、人類史的にみたら「進化」に等しい)

 やはり、ストーリーの面白さもさることながら、人間心理のドラマのほうが、時を越えて読まれるのであろう。
 ミステリーの女王クリスティも、『アクロイド殺し』や『オリエント急行殺人事件』などのミステリー史に残る大トリックや、『そして誰もいなくなった』などの凝った設定と強烈なサスペンスに目を奪われがちだけれど、あれだけ多くの作品が図書館や本屋にいまだに並ぶ一番の理由は、彼女の心理描写の巧みさと心理ドラマの説得力、それに雰囲気づくりのうまさにあると思う。
 最近、クリスティのいくつかの非代表的な作品を数十年ぶりに読みかえしてみた。
 なんてことないストーリーなのに、やっぱり面白い。




おすすめ度 : ★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損