1988年オランダ、フランス共同制作
106分

 人間消失をテーマとする犯罪サスペンス。
 名匠スタンリー・キューブリックが「人生でいちばん怖いと思った映画」と評した、というDVDパッケージの宣伝文句に惹かれて借りてみた。
 
 車でフランス旅行中の若いオランダ人カップル。
 途中のドライブインで飲み物を買いに車を降りた女は、そのまま行方知れずとなる。
 残された男は、彼女の消息が気になって、歳月が立っても通常の生活に戻れず、メディアを利用するなどして必死に探し続けている。
 数年後、女を連れて行った犯人からと思われるメッセージが、男のもとに届くようになった。
  「女がどうなったのか知りたいのであれば、俺と一緒に来い」
 誘いに応じ、男は犯人の車の助手席に乗る。

 物語自体はシンプルで、女の“その後”をのぞけば取り立てて謎めいたところもないし、どんでん返しのような凝った仕掛けもない。
 犯人の顔や素性、犯行の手口も、早々に明らかにされる。
 レイプや暴力といった目を覆いたくなるような残酷シーンもない。
 全体に、淡々と静かなタッチで描かれている。
 なので、上記のキューブリックのコメントは、ちょっとオーバーな気がする。
 個人的には、よっぽど、キューブリック自身の『時計じかけのオレンジ』のほうが怖いと思う。

 ただし、エドガー・アラン・ポーのある有名な短編小説や、つのだじろうのオカルト漫画『うしろの百太郎』に出てくるあるエピソードを読んで、主人公が置かれた“その状態”に心底恐怖を覚える人であるならば、これにまさる恐怖はないだろう。
 ソルティも実は「●●恐怖症」の気があるので、この映画の結末はさすがに怖気をふるった。

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Dawn I'll never tellによるPixabayからの画像


 犯人は、良い妻と二人の娘を持ち、学校で高等数学を教えている、どこにでもいるような優しいフランスのパパである。
 その正体がサイコパスであることのギャップもまた、この映画が公開された88年にあっては衝撃的で、身も凍る「怖さ」を観客に与えた一因だったのかもしれない。
 90年公開の映画『羊たちの沈黙』の大ヒット以降、つまりハンニバル・レクター博士の華々しい登場以降、あるいは国内においては『黒い家』や『悪の教典』の貴志祐介デビュー以降、我々はずいぶんサイコパス慣れしてしまった。
 プロダクション・アイジーによるアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』などは、続編に次ぐ続編の人気シリーズだしな・・・・。
 みんな結構、サイコパスが好きなんだ。



おすすめ度 : ★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損