1991年(株)コミックスより刊行
2010年講談社文庫
表題作他、『ダンピール海峡』、『レーモン河畔』、『KANDERE』、『ごきぶり』、『幽霊艦長』を掲載。
『白い旗』同様、水木しげる自身の体験はじめ、友人・知人などから聞いた話をもとにしている。
多少の脚色は施してあろうが、根本的にはノンフィクションと言っていいのだろう。
なかで、ラバウルがあるニューブリテン島で出会った現地の美女姉妹をめぐる逸話『レーモン河畔』が興味深い。
明日死ぬかもしれない第一線にひょっと現れた現地の美女たちが、無傷で後方まで下がり、無事戦後まで生きのびたという。
姉妹の父親であるホセは食べるものに困り、日本軍に食糧を求めてきた。
その見返りとして中隊長が求めたのが、姉妹たちが200名の兵隊のための性処理係になること、つまり従軍慰安婦になることであった。
日本語は解せないものの趣意を察し、声を上げて泣き出す姉妹の母親。
爆発寸前の欲望を抑えながらも、一家を可愛そうに思った兵隊たちの意見で、結局、ホセ一家は後方に送られることになった。
若い女が目に見えるところにいることが、男の心をかき乱すからである。
戦後、姉妹の一人は日本人と結婚し、日本に移住した。
ホッとする話であるが、これが日本軍の“稀に見る美談”として語られたというのだから、通常ならばどうであったか推して知るべし。
おすすめ度 : ★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損