2012年イギリス
124分

 インドのジャイプールが舞台。
 ジャイプールにオープンした“高齢者向け豪華リゾート”という触れ込みのマリーゴールド・ホテルに、それぞれの事情からやって来た老男老女7人の英国人のふれあいを描く。
 肩の凝らない、楽しくハートウォーミングなヒューマンコメディである。

 『あるスキャンダルの覚え書き』のジュディ・デンチ、『パレードへようこそ』のビル・ナイ、『ダウントン・アビー』のペネロープ・ウィルトン、そして『ミス・シェパードをお手本に』のマギー・スミスなど、イギリスの名優たちの競演が最大の見物である。
 やっぱり、シェークスピアのお国、演劇の本場と言えば英国である。
 高い鑑賞眼を持つ観客らによって長年鍛えられた彼らの芝居は、骨董品のような価値がある。
 とくに、ジュディ・デンチは、『あるスキャンダルの覚え書き』のストーカーまがいの女教師とも、『オリエント急行殺人事件』の貫禄たっぷりな貴族婦人とも、全く違う魅力的なキャラクターに扮して、芸の幅を感じさせる。
 
 「中国人は世界のどこに行っても中国人」と言われるが、英国人もしかり。
 どこに行っても、普段の生活スタイルを変えないような、ある種の保守性を感じる。
 一番わかりやすい例を言えば、「午後の紅茶」であろう。
 それは、個性を大切にする、心の軸がぶれないといった安定性や信頼感を形づくるものではあるが、一方、変化に柔軟に対応できない硬直さにもつながる。
 とりわけ、老いた者ほどその傾向が強い。
 パソコンやスマホ、無人レジ、キャッシュレス社会、ZOOM会議・・・・・。
 時代についていけなくなる一方だ。
 ソルティも、30年ばかり時を戻してほしいと思うことがたまにある。
 若返りたいという意味ではなく、インターネットのなかった時代にという意味で・・・・・。

 しかし、変化しなければ人は老いる。
 人生は縮小し、心は硬直化する。
 新しい出会いは、新しい自分を発見させてくれる。
 イキイキさせてくれる。

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 誇大広告もいいところで、老朽化し閉鎖寸前のマリーゴールドホテルに行きついた7人。
 新しい珍奇な世界(なんたってインドである!)にすぐ馴染み楽しんでしまう者もいれば、宿に閉じこもってイギリスに帰ることばかり考えている者もいる。
 現地で仕事や恋人を見つけて新たな人生へと踏み出す者もいれば、マンネリの関係に見切りをつけ別れを決める夫婦もいる。
 かつて理不尽な別れをしたインド人の同性の恋人を探し出して再会し、人生の重荷を下ろし、そのまま昇天する者もいる。
 外国人への偏見強く馴染むまでに時は要ったものの、現地の不可触民との出会いを通じて一気に変化を遂げる者もいる。
 人それぞれの身の処し方が味わい深い。

 変化のない穏やかな老後というのは一つの理想であろう。
 だが、死ぬまで何が起こるかわからないというのが現実である。
 良くも悪くも・・・・。
 流れに身をまかせるのが良さそう。



おすすめ度 :★★★ 

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損