2008年東宝
94分

 清水宏監督『按摩と女』(1938)のリメイクである。
 主人公の按摩・徳市を先ごろ結婚したばかりの草彅剛が、旧作では高峰三枝子が演じた東京から来た謎の女をマイコが演じている。
 
 リメイクにもいろいろあるが、これはほとんどカラー撮影による旧作の焼き直しである。
 セリフ(脚本)も、演出も、カット割りも、役者の演技も、ほぼ旧作をなぞっている。

 それは一概に悪いとは言えない。
 旧作の白黒フィルムに、季節感たっぷりの鮮やかな色彩と、性能の良いカメラによって捉えられた夏の光や陰影と、高音質による自然音の再現を付与してくれただけでも、望外の喜びである。
 制作サイドの趣旨もおそらく、旧作とは違ったオリジナリティをあえて打ち出すことにはなくて、埋もれた日本映画の傑作にたいするオマージュと、隠れた天才・清水宏の名を一人でも多くの現代人に知らしめるあたりにあったのではなかろうか。(石井監督自身、これをリメイクでなく「カヴァー」と言っている)
 草彅の目の見えない演技も、マイコの楚々として美しい着物姿も、脇を固める三浦友和や渡辺えり子や堤真一の抑えた演技も、奇跡のような美しさを放つ旧作の価値を傷つけることなく、全体に好ましい再現が達成されている。

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随一の名シーン
傘をさす東京の女に扮するマイコ

 
 旧作との違いをあえて挙げれば、音楽であろう。
 旧作ではヴァイオリンのノスタルジックな音色が湯煙立つ山々に響いていた。
 本作では静かなピアノの旋律を基調とした癒し系のオーケストレーションになっている。
 その違いが、本作を旧作よりも繊細かつ抒情的にしてドラマ性の高いものにしている。
 それによって、旧作では高峰三枝子=東京の女に当たっていた焦点が、本作では草彅剛=徳市に引き寄せられている。
 もちろん、マイコと草彅のネームバリューの差も大きいし、旧作で徳市を演じた徳大寺伸と草彅の役者としての質の違いもある。
 なんだかんだ言っても、草彅は天下を取ったアイドルグループの一員である。
 観る者は、自然、片恋する徳市に感情移入するだろう。
 
 本作において旧作より優れているとソルティが思ったのは、徳市の親友で按摩仲間の福市を演じている加瀬亮である。
 この作品の本質というかカラーというか、匂いそのものを体現しているかのような佇まいを見せる。
 その意味で、旧作が高峰三枝子とイコールで結ばれるとしたら、本作はイコール加瀬亮である。
 馬車で去り行く東京の女を“見”送る徳市の発する気配を、その背後からそっと感じ取り、おもむろに俯く福市(=加瀬亮)を撮ったカットは、旧作にはない深い感動を観る者に与えてくれる。
 そう、これは目の見えない青年同士の友情の物語でもあった。
 
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おすすめ度 : ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損