1936年松竹
76分、白黒
原作川端康成というのにちょっと驚いたが、なるほどこれは『伊豆の踊子』と同じ、静岡県伊豆半島を舞台とする話なのであった。
天城街道を走る路線バスの道中で起こる様々な人間ドラマを描いたロードムービーである。
タイトルの「有りがたうさん」はこのバスの運転手のあだ名で、道をよけてくれる人や動物たちに運転席から彼が投げかける挨拶なのである。
演じるは27歳の上原謙、さすが正統派美男子である。
天城街道は下田街道ともいい、東海道の三島を起点に伊豆半島を南下し、天城峠を越えて、温泉や海水浴で人気の下田に至る道である。
言うまでもなく、松本清張、石川さゆりの『天城越え』の舞台。
本作では、下田を出発したバスが、半島東側の風光明媚な海岸沿いを走り、川津桜で有名な川津から内陸に入り、山間の険しい崖沿いの道を上り、旧天城トンネルを抜けて湯ヶ島に至るあたりまでの昭和初期の光景が楽しめる。
道路はもちろん舗装されていないし、信号も横断歩道もガードレールもない。
のほほんとした軽快なBGMは、『遠き山に日は落ちて』や『冬の星座』の訳詞で知られる堀内敬三で、全体、清水監督ならではのコメディタッチのユーモラスな作りとなっている。
が、バスの乗客や街道ですれ違う旅人の置かれている環境は、必ずしも明るいものではない。
東京に売られてゆく娘、トンネル工事に駆り出される在日朝鮮人、事業に失敗し娘二人を売った父親、不景気にあえぐドサ回りの芸人たち・・・・。
川端の原作では、東京に売られてゆく娘はともに旅する母親の“せめてもの情け”のはからいにより、好きな運転手と一夜を過ごすらしい。
そこまで描くとさすがにコメディタッチとはいかず、上原謙のスター性も守れなかったであろう。
本作では一線は越えていない。
おすすめ度 : ★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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