2013年
118分

 原作は中上健次の同名小説。
 中上言うところの“路地”、すなわち海辺の被差別部落を舞台とする、不吉な伝承に囚われたある一族の美しき男たちの生き様、死に様が描かれる。

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 夭折した芥川賞作家・中上健次と『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2007年)の若松孝二に対する敬意から見続けはしたが、かなり退屈した。
 途中で止めなかったのは、主演のオリウを演じる寺島しのぶの演技ゆえである。
 同じ役名である“お竜”を演じた母親(富司純子)の映画はずいぶん観たけれど、娘の出演作は水野晴朗の撮った『シベリア超特急2』しか観ておらず、しかも出演シーンをまったく覚えていない。
 今回初めてしっかりと観た。
 美貌の点では母親にはかなわないが、演技力では上かもしれない。
 これからほかの出演作を当たっていきたい。

 若松の演出は、室内シーンはまだ良いが、室外が良くない。
 まるでテレビのような安易な演出、カメラ回しでげんなりした。
 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』では室内シーンが多かったので、この欠点に気づかなかったのだろう。
 低予算のせいもあるかと思うが、肝心の路地という場所の空気が醸されていない。
 主要人物以外の住人の姿もなく、路地で遊ぶ子供の声すら聞こえない。
 男たちが山中で木を伐採するシーンでも、山の気というものがまるで映し撮られていない。
 中上健次が観たら、どう思っただろう?

 中本家の男たちはたんなる美形ではなく、女が放っておかないフェロモンの持ち主という設定だが、演じている役者たち(高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太)はなるほど美形かもしれないが、性的魅力が今一つである。
 ただこれは、若松監督が男を色っぽく撮れないからなのかもしれない。
 迫力では高岡蒼佑が群を抜いている。

 ソルティは中上健次はほとんど読んでいないので、その世界観や思想を知らず、批評できる立場にはない。
 なので、この映画だけからの印象である。
 路地で生まれ育った男たちの暴力や犯罪癖、セックスや薬への依存、つまり狂った性格や破滅的な生涯を「身内に流れる高貴で忌まわしい血のせい」としてしまうのは、前近代的な言説であると同時に、一種の自己陶酔であろう。
 いわゆる貴種流離譚である。
 ソルティはむしろ、こんなに海の近くに生まれ育ちながら漁の仲間に入れないという差別的な境遇こそが、男たちを絶望させ自己破壊的な生に向かわせているように思う。
 その事実から目を背けるための救いとしての装置が「高貴な血の呪い」伝承であるならば、それはある意味、現実逃避にほかならない。
 高貴な血の呪い伝承とは、反転した天皇神話なのではあるまいか。

 ラストクレジットのBGMでは、明治維新で四民平等になったはずなのに“一般民”に嬲り殺された部落民のさまを描いた小唄が流される。
 少なくとも、若松監督にはその視点があった。 



おすすめ度 :★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損