2019年イギリス、アメリカ
118分

 ルキノ・ヴィスコンティ『ベニスに死す』(1971)で絶世の美少年タドズオを演じたビョルン・アンドレセンが、65歳の最近になって、少年の彼を性的搾取したとしてヴィスコンティや祖母や周囲の大人たちを告発したことが話題となっている。
 撮影当時15歳だった彼。
 「あれほどの美貌に大人が群がらないわけはあるまい。とりわけ今のようにセクハラやパワハラに対する世間の厳しい目や #MeToo 運動がない時代に・・・」と思ってはいたが、やはりいろいろ苦労したようである。

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ビョルン・アンドレセン(15歳)


 彼ほどの美貌ではないにしても、子供時代に一躍スターになった者がその後の人生を苦難続きにしてしまうのはよく聞く話である。
 マイケル・ジャクソン然り、ホイットニー・ヒューストン然り、マコーレー・カルキン然り、ケンちゃんこと宮脇健(旧芸名は康之)然り。
 この映画の主役ジュディ・ガーランドもまさにその一人だった。

 『オズの魔法使い』、『若草の頃』、『イースター・パレード』、『スター誕生』で見せた抜群の演技力と歌唱力、ゴールデン・グローブ賞やグラミー賞はじめ数々の栄誉、フレッド・アステアやミッキー・ルーニーやフランク・シナトラとの共演、生涯5度の結婚。
 華やかなスポットライト人生の陰に、少女時代に受けた虐待に等しい大人たちによる搾取があり、それがトラウマとなって彼女を生涯苦しめ続けた。
 本作でははっきり描かれていないが、プロデューサーへの枕営業も強いられたという噂もある。
 ドロシーを演じたときは、覚醒剤の常用で意識朦朧だったとか・・・。

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『オズの魔法使い』でドロシーを演じた


 本作はジュディが晩年に行ったイギリスライブの模様を軸に、人気低迷し、スキャンダルにまみれ、荒れた生活を送る四十半ばの彼女の姿が描かれる。
 ホテル代も支払えないほど窮乏し、愛する子供を手放さなければならず、薬やアルコールや男に頼らなければステージに立てない、身も心もぼろぼろのジュディが痛ましくも切ない。
 が、いったんマイクを握ってステージに立ち、スポットライトと観客の視線を浴びれば、歌わずにはいられない。
 ちあきなおみの名曲『喝采』に通じるような芸人としての性(さが)。

 ジュディを演じたレネー・ゼルウィガーはこれで主演女優賞を総なめにした。
 実際にすべての歌を吹き替えでなく自身で歌っているというから凄い。
 ラストを飾る『オーヴァー・ザ・レインボウ』など、涙なしで聞けない。

 ジュディ・ガーランドはゲイのアイコンとしても名高い。
 本作でもジュディの大ファンの中年ゲイカップルが登場し、ジュディと心温まる触れ合いを持つ。
 当時英国は(米国も)ソドミー法により同性愛行為は処罰の対象であった。
 彼らは「虹の彼方」にある自由な世界――好きな人と腕を組んで白昼堂々歩くことができるエメラルドシティ――にどれだけ思いを馳せたことか!
 アメリカの同性愛者による歴史的な暴動「ストーンウォールの反乱」は、ジュディの葬儀翌日(1969年6月28日)に起きた。
 ここに因果関係を見る人は多い。
 むろん、ソルティもその一人である。

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おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損