1957年東宝
133分、白黒
ちょっと前に「豊田四郎監督の映画が観たいなあ」と呟いたら、なんとラピュタ阿佐ヶ谷で特集(3/14~5/1)が組まれた。
ソルティが観た『夫婦善哉』や、川端康成原作の『雪国』はじめ、29本一挙上映である。
ラピュタにも一度行ってみたかった。
不要不急の外出自粛ではあるが、交通経路を工夫し、平日の昼間ならば人混みを避けられよう。
実に2年ぶりの映画館、スクリーン体験となった。
JR中央線の阿佐ヶ谷駅北口から歩いて3分のところにラピュタはある。
狭い路地の入りくむ昔ながらの商店街を抜けた閑静な住宅街の一角にあって、中世の城郭のようなシックで落ち着いた佇まいを見せていた。
思ったよりお洒落である。
階下には待合室を兼ねたリラックススペースがあって、昔の映画のポスターや図書やDVD、スターのプロマイド写真などが売られていた。
上階にはフランチレストランもある。
昔の邦画好きにとってオアシスそのもの。
定員は48名、ソルティの観た回は20名ほどであった。
本日は『雪国』。
お目当ては岸恵子の駒子である。
ソルティは思春期の頃、山口百恵主演のTVドラマ『赤い疑惑』の“パリの叔母さま”役で見知った時から、この女優のファンになった。
市川崑監督の『おとうと』における姉げん役はもちろん、金田一耕助シリーズ『悪魔の手毬唄』の真犯人役や『女王蜂』の秀麗なる家庭教師役も忘れ難い。
さすがに『君の名は』(真知子巻き)は観ていない。
大庭秀雄監督『雪国』(松竹)における岩下志麻の駒子も美しくて良かったが、鮮烈さにおいては岸に軍配が上がろうか。
可愛くて、いじらしくて(ブリっこで)、美しくて、激しくて、凛として、芯が強くて、哀しくて・・・・。
ブリっこと哀しさをのぞけば、女優岸恵子そのものなのではなかろうか。
岸のトレードマークである切れ長の目が、駒子の情のこわさと意志の強さを示していて、島村でなくとも一度彼女に捉えられたら離れがたくなってしまうだろうと思わせる。
その島村役は池部良。
白い雪に映える二枚目ぶりで、演技もうまい。
が、岩下と組んだ木村功のほうが、原作のイメージ=虚無的な男には近い気がする。
いや、映画全体、大庭作品のほうが、原作のもつ刹那的で幻影的な雰囲気をとらえていたように思う。
豊田作品は駒子という女、駒子の恋を描くことがメインになりすぎて、島村の冷めた心情が後方に退き、ただの優柔不断のやさ男に見えてしまう。
島村が芸者の駒子を(一時の遊び相手として)振り回しているのではなく、逆に駒子が島村を(自らの恋の犠牲者として)振り回しているようにすら見える。
まあ、それだけ岸恵子の駒子が魅力的ということだ。
ほかに旅館の女将役のおちょやんこと浪花千栄子、気性の激しい葉子を演じる八千草薫(岸とは一つ違い)、体も売っちゃう芸者役で笑いを提供する市原悦子、按摩役の千石規子が好演である。
個人的には、岩下の駒子も岸の駒子もなんだか気が強すぎて、もそっとたおやかな駒子が望ましい。
葉子もまた気が強い女なので、二人いっぺんにかかって来られると疲れてしまう。
ソルティは、TVドラマで観た松坂慶子の駒子(1980)が良かった(共演は片岡秀夫)。
吉永小百合の駒子、夏目雅子の駒子あたりも観たかったな。
特集中にもう数回、ラピュタに足を運びたい。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損