2019年風濤社
若くして夫を亡くした女将と、パリで国際結婚のち離婚した娘(のりぽきーと)。
母娘二人で切り回す地域密着の美味しい「てるてる坊主食堂」(埼玉県が舞台らしい)。
地元民に愛され、儲かりはしなくとも楽しく充実した日々を送っていた母娘に、悲劇は突然訪れた。
胃の不調で検査を受けた女将が受けた診断結果、それは「すい臓がんで余命2ヶ月」だった。
本作は、四コマ漫画とエッセイで綴られた母と娘の闘病記である。
まず、立派な体裁に感心する。
全頁オールカラーなのだ。漫画の一コマ一コマはもちろん、あとがきに載っている母娘や料理の写真も。
紙質も厚くて、白けざやかで上等。
ふと、昔サンリオが出していたオールカラーの月刊誌『リリカ』を思い出した。
手塚治虫(『ユニコ』)、水野英子、山岸凉子、ちばてつや、石ノ森章太郎、樹村みのり、竹宮恵子、萩尾望都、永島慎二など、豪華絢爛たる顔触れの執筆陣だった。
出版不況のいま、なぜこのような贅沢が可能なの?・・・と思ったら、奥付ページに答えがあった。
ネットのクラウドファンディングCAMPFIREを通じて出版資金を募ったのだ。
もともとは、のりぽきーとさん主宰の四コマ漫画ブログだったらしい。
女将は、すい臓摘出の大手術とその後の抗がん剤による副作用を乗り越えて、毎日インスリン投与しつつ、無事お店に復帰する。
そこに至るまでの母と娘の悲喜こもごもが、二人を支える様々な人々――中学生のハーフの孫娘、常連客、女将の仕事仲間や友人、ブログを通じて知り合ったがんの闘病者、娘がパリで作った異国人脈、病院のイケメン担当医など――との触れ合いとともに描かれる。
女将を復帰させ、2か月と言われた余命を5年近く延ばしたのは、これら周囲の人々の支えと、料理屋の女将という仕事に対する熱い思いであったことが伝わってくる。
むろん、しっかり者の娘の愛情と――。
美味しい卵焼きが食べたくなった。