2014年(株)サンガ
2016年サンガ新書

 副題が長い。
 「最先端脳外科医とタイの瞑想指導者が解き明かす苦しみをなくす脳と心の科学」

 脳外科医とあるのが1958年生まれで都立駒込病院脳神経外科部長をつとめる篠浦伸禎で、一方、瞑想指導者とあるのが1962年生まれで88年タイで出家したテーラワーダ僧侶のプラユキ・ナラテボー師である。

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 第一部では、プラユキ師によるタイで実践されている代表的な三つの瞑想法の伝授と、篠浦が現場で実践している脳の覚醒下手術の説明とそこから判明した脳の部位による働きの違いに関する知見が記されている。
 第二部は二人の対談である。

 最先端脳科学と仏教あるいは瞑想との関係を説いた本はいまなおブームであり、当ブログでもいくつか取り上げてきた。
 中でも、『瞑想脳を拓く』(井上ウィマラ、有田秀穂共著)、『なぜ今、仏教なのか――瞑想・マインドフルネス・悟りの科学』(ロバート・ライト著)、『科学するブッダ 犀の角たち』(佐々木閑著、角川文庫)、『奇跡の脳』(ジル・ボルト・テイラー著、新潮社)などはお勧めである。
 また一冊、脳の覚醒下手術による知見という新たなアプローチがここに加わったわけである。

 脳の腫瘍摘出などで開頭手術を行う場合、これまでは全身麻酔が普通であった。
 が、近年、これに変わって実施されるようになり治療効果の高さや副作用の少なさから注目を浴びているのが、覚醒下手術である。
 篠浦によると、

 全身麻酔の手術では、患者さんののどに管を入れて、麻酔薬で患者さんを完全に眠らせ、最後まで意識のない状態で手術を行います。一方、覚醒下手術は、基本的には、局所麻酔と静脈からの麻酔薬で痛みを取り、腫瘍を摘出するところでは完全に麻酔薬を切って行います。つまり、手術中に患者さんに起きていただき、症状が悪化しないかチェックしながら手術ができるため、全身麻酔の手術に比べて極めて安全な手術になります。

 一瞬びっくりするような話であるが、こういったことが可能なのは、脳自体にはもともと痛みを感じる神経がないことと、局所麻酔による痛み止めの技術が近年格段に進歩したゆえである。(ソルティも足の骨折手術時にお世話になった)
 覚醒下手術だと、脳の術部周辺に電極を当て刺激を与えつつ、手術台の上の患者さんの意識や認知機能の変化を本人に直接確認することで、安全に手術続行できるかどうかチェックできるわけである。これが全身麻酔だと、摘出手術が終わり患者さんが覚醒したときに言語障害や麻痺や認知機能の損壊といった思わぬ副作用が見つかったとしても、もはや取り返しがつかない。
 医学の進歩はすごいもんだ。

 覚醒下手術はまた副次効果が興味深い。
 てんかん患者を対象にした覚醒下手術&実験をもとに作られたペンフィールドのホムンクルス(下図)は、脳の運動野と感覚野が体のどの部位と対応しているかをマッピングしたものとして有名だが、患者が自らの意識経験をリアルタイムで証言できる覚醒下手術だと、脳のどの部位が、特定の意識や認知といった知的・精神機能と関与しているかが見えてくる。
 たとえば、ある部位に刺激を与えたら他人の恐怖の表情が読めなくなったとか、ある部位の腫瘍を摘出したら急に難しい数字の逆唱ができるようになったとか、人の脳の機能の解明と言う点で極めて意義深く、新たな地平を開くものがある。
 いずれ、認知症の原因解明と治療などに役立つ日が来るやもしれない。 
ホムンクルス

 
 第一部の最後には、篠浦がこれまで何百回と行った覚醒下手術から得た脳の働きに関する知見をもとに作った「脳のタイプチェック」が紹介されている。
 大まかに、4タイプに分かれている。
 脳優位スタイル検査というサイトでチェックテストをすれば、自分がどのタイプにもっとも当てはまるか知ることができる。
 本書のカバー裏には脳テストを受けるために必要な個別の ID とパスワードが貼ってあり、本書を購入した者はこの脳テストに参加し、自身のタイプを知り、アドバイスを受けられる仕組みになっている。
 面白い試みである。(ソルティは本書をブックオフで購入したので、IDとパスワードはすでに使用済みだった・・・・残念)
 
脳

 
 メインとなる第二部の対談では、やはり現役のテーラワーダ僧侶であり、日本での講演や瞑想指導でも人気を博しているプラユキ師の言葉が奥深い。
 ソルティはこれまで彼の法話に接したことがなく、本を読むのも初めてであるが、智慧と慈悲、仏法理解と実践とのバランスの取れた、柔和な性格の人という印象を受けた。

 以下、本書よりプラユキ師の言葉を紹介。

 瞑想の目的は智慧を得て、苦しみから自由になっていくことと、一切衆生への深い慈悲を育てていくことです。瞬間瞬間に気づいていくことはその手段です。もちろん瞑想によって心の安らぎや落ち着きが生じたり、あるいは歓喜の体験や三昧体験などさまざまな変容意識体験も生じてきますが、そういった境地を得ることが瞑想の最終目的ではありません。・・・・・智慧を得ていくためには、特定の心の境地へのとらわれからも自由になって、心をコントロールすることをやめ、あるがままの洞察に進んでいくことが大事です。

 まず、自分の意見や気持ちを相手に押しつけようとするのが自我的。それに対して、相手の意見も自分の意見も平等に尊重した視点から発言できるのが瞑想的
 それから、相手の表面に現れる言葉にすぐに反応しちゃうのが自我的。それに対して、相手の言葉をいったん受けとめて、その言葉の奥にある相手の思いや願いにまで思いを馳せられるのが瞑想的
 そして、問題が生じてきたとき、すぐに白黒をつけようとするのが自我的。それに対して、その問題を通していろいろ学んだりしながら、相手との関係をより良くしていこう、より良い解決法を見つけていこうと前向きに取り組むのが瞑想的な対応法です。

 悩み苦しみとは、よるべを失い、恣(ほしいまま)にさまよう心の作りだす空想物語の数々です。こうした理解を経て、思考やイメージの主になりえたとき、今度は逆に、今、目の前の困難な状態にある相手にまみえても、自由にイマジネーションの翼を広げて、その人の来し方、行く末のより良く変容した姿も思い描け、いたずらに相手の今の姿に落胆や狼狽することがなくなります。そして、思いやりと希望を持って、相手の良き縁とならせてもらうために、今ここで自分が何をさせてもらったらいいかなど、冷静に対応を吟味できるようになるのです。

 コロナが落ち着いたら、法話を聞きに・・・・いや、師のツイッターによれば、ZOOMで今も瞑想指導や個人面談をやっているらしい。
 時代はZOOMか・・・・。 



おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損