1956年東京映画
103分、モノクロ

 東京映画なんてレーベルがあったことを知らなかった。
 1952年~1983年に存在した東宝系の制作会社だったらしい。
 森繁久彌、伴淳三郎、フランキー堺の三人が主演の「喜劇駅前シリーズ」が最大のヒット作とか・・・。(ソルティ未見)

 原作は谷崎潤一郎の同名小説であるが、これまた未読。
 だが、“いかにも”な谷崎文学の刻印が見られる。
 強く美しい女の尻に敷かれる優柔不断な男とか、その男が若い女の脚フェチであるとか。
 つまり、マゾヒズムの匂いがそこここに漂っている。
 タイトル通り、猫を溺愛する男の話なのであるが、言われてみれば、躾けるのが好きなサディストは犬好き、振り回されるのが好きなマゾヒストは猫好き、といった傾向はあるかもしれない。
 とはいえ、同じ谷崎原作の『刺青』や『瘋癲老人日記』や『』のようなあからさまな変態映画ではなくて、関西の海辺の田舎町を舞台にした人情喜劇である。

 タイトルの「二人の女」は、実際には「三人の女」が正しかろう。
 ぐうたらを絵にかいたような甲斐性なしの庄造(=森繁久彌)をめぐる三人の女、すなわち、母親(=浪花千栄子)、前妻(=山田五十鈴)、後妻(=香川京子)の愛憎や嫉妬や意地や欲得の入り混じった壮絶バトルが見どころである。
 三者とも甲乙つけがたい名演で、役の上での闘いとともに、女優としての火花もバチバチ散っている。

 おちょやんは本当に、名作と言われるほどの映画なら必ず顔を出しているなあと感心する。喜劇センスは言うまでもない。鶏小屋に隠れるシーンなど爆笑もの。
 山田五十鈴は、未練・嫉妬・意地・驕慢・可愛さ・怒りなど、女の様々な感情を表情豊かに描き出して見事の一言に尽きる。
 香川京子はいつもの清楚で従順な女性といったイメージを覆すアプレ女(今で言うならギャル)になりきって、伸びやかな裸の足を惜しげもなく庄造役の森繁の前に差し出している。
 この三女優それぞれの熱演をしっかり受けとめて、なおかつ主役としての存在感と個性と色気を失わない森繁はやはり一級の役者である。
 
 ラピュタ阿佐ヶ谷にて鑑賞す。

 

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congerdesignによるPixabayからの画像


おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損