1937年原著刊行
1992年邦訳初出
2020年岩波文庫(阿部賢一訳)
3幕の戯曲。
カール・チャペック(1890-1938)は、今は無きチェコスロバキア共和国のジャーナリスト&作家。
チェコスロバキアは1918年オーストリア=ハンガリー帝国から独立して建国、1960年以降は共産党独裁による社会主義国家となりソ連の支配下にあった。1992年のビロード革命で共産党政権が崩壊、チェコ共和国とスロバキア共和国に分離して今に至っている。
白い病とはチャペックが創造した伝染病である。50歳以上の人間だけが罹患、皮膚に白い斑点が現れたのち身体内部で腐敗が進行し、数週間後に死亡する。感染力は非常に強く、握手でもうつる。中国が発生源という噂がある。
新型コロナウイルスとの類似を思うところだが、本書はまさに2020年4月~5月の緊急事態宣言中に訳し出されてウェブ公開されたのが文庫化のきっかけとなった。
カミュの『ペスト』、デフォーの『ペスト』同様、タイムリーな企画出版というわけだ。
白い病はコロナ同様、世代間の分離と対立を引き起こす。
作中に登場するある家族の会話。
父 ばかげてる! 今日の学問や文明はいったいどうなってるんだ、ありえん話だ――伝染病がこんなに流行しているってことは、今は中世だとでも言うのか? しかもどうして五十歳なんだ。職場でも一人が病気になったが、ちょうど四十五だった。五十前後の人間だけが病気になるのはどう考えても公平じゃない。いったいどうして、なぜなんだ――娘 なぜって? 父さん、若い世代に場所を譲るためでしょ。そうならなければ、行き場がないんだから。娘 今の若者にはチャンスがないの、この世の中に十分な場所がないの。だから、私たち若者がどうにか暮らして、家族をもてるようになるには、何かが起きないとだめなの!
世界じゅうに広がり打つ手がないように思われた白い病の特効薬を、ある町医者が開発した。ガーレン医師だ。
お国の大学病院を借りておこなった臨床試験でも抜群の成績を上げた。
大学病院の責任者はじめ財界や政界のお偉方は、ガーレン医師に治療法の公開を求める。
それに対してガーレンが要求した引換え条件は、あまりにまっとう過ぎるがゆえに、かえって実現困難なものであった。
本作のテーマは、平和を求める者と戦争・権力・富を求める者との対峙を描くところにある。それはまた「持たざる者」と「持つ者」との闘いであり、一人の平和主義者が国家主義者に挑んだ一種のテロリズムである。武器は白い病の治療法だ。
発表当時はもちろん、ヨーロッパで勢力を拡大しつつあったナチスドイツ、つまり国家主義&全体主義に対する風刺であり、プロテストだったのだろう。登場人物の一人、国軍の最高指導者たる元帥は、ヒトラーを連想させる。
本作がタイムリーなのは白い病がコロナウイルスと似ているからだけではない。
平和をひたすら求め貧しい患者を助けるガーレンと、「国のため」と言いつつ栄誉や威信や私利私欲に執着する権力者との対比に、香港や台湾の市民 v.s. 中国共産党を、あるいは民主化を求めるミャンマーの大衆 v.s. 国軍を、重ね合わせてしまうからである。
時代を超越するところが名作たるゆえん、岩波文庫にふさわしい。
最後には元帥自身も白い病に感染してしまう。
さて、どんな結末が用意されているか・・・・。
140ページの薄さなので、小一時間あれば読める。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
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