放映年月 1977年4月
放映局 TBS系
放映時間 225分(45分×5回)
最高視聴率45%を超えた古谷一行主演「金田一耕助シリーズ」の第一作にして記念碑的作品である。
茶木みやこがねっとりと唄ったテーマ曲「まぼろしの人」(第1シリーズ)、「あざみの如く棘あれば」(第2シリーズ)の禍々しいメロディが、凄惨にして忌まわしいドラマ内容と増幅し合って、金曜夜の放映後の寝つきを不穏なものにしたことを覚えている。
演出の工藤栄一は、『その後の仁義なき戦い』ほか東映ヤクザ映画で鳴らし、朝日放送「必殺シリーズ」では研ぎ澄まされた美的感覚によるスタイリッシュな映像(陰影と色彩と構図の妙)で視聴者を魅了した名演出家。
当時中学生だったソルティは工藤栄一の名を知らず映画も観ていなかったけれど、数十年たった今あらためてこうして見直してみると、「なんて質の高い作品だったのか!」と驚くほかない。
演出といい、撮影といい、美術といい、役者の風格や演技といい、平成令和のテレビドラマが失ってしまったものの大きさに慨嘆するばかり。
とくに本作は、市川崑&石坂浩二による映画『犬神家の一族』が前年大ヒットして、その影響冷めやらぬなか企画された横溝正史シリーズのトップバッターであることもあって、制作陣の気合の入れ方が半端ではない。
犬神三姉妹(京マチ子、月丘夢路、小山明子)をはじめとする豪華出演陣、信州の素封家・犬神家の豪邸内の凝ったセット(テレビなので広さは割愛せざるを得ないが)、全編に行き渡る工藤監督の美的センス、そして、「助清の白いゴムマスクを能面に変更する」、「三姉妹の母親たちと犬神佐兵衛の異常な関係を描く」など原作や市川映画との相違部分も見事に効果を放って、225分ノンストップの極上の人間ミステリードラマに仕上がっている。
犬神三姉妹(京マチ子、月丘夢路、小山明子)をはじめとする豪華出演陣、信州の素封家・犬神家の豪邸内の凝ったセット(テレビなので広さは割愛せざるを得ないが)、全編に行き渡る工藤監督の美的センス、そして、「助清の白いゴムマスクを能面に変更する」、「三姉妹の母親たちと犬神佐兵衛の異常な関係を描く」など原作や市川映画との相違部分も見事に効果を放って、225分ノンストップの極上の人間ミステリードラマに仕上がっている。
『犬神家の一族』はこれまで3度映画化され7回TVドラマ化されているのだが、やはり市川崑による最初の映画と工藤監督による本作が双璧といってよかろう。
個人的には映画より本作のほうに軍配を上げたい。
なんといっても真犯人犬神松子役の京マチ子が素晴らしい。
大女優の貫禄や風格は言わずもがな、日本髪に着物姿の艶やかな美しさ、切れ長の目の茶が勝った瞳に宿る妖しさと狂気、母親を虐待した身勝手な父親(犬神佐兵衛)への怒りと憎しみを孕みつつ、自らもまた息子(助清)を溺愛するあまり犬神家の忌まわしい因縁に囚われて、その手を血で染めていく。
助清役の田村亮と京マチ子
白い能面が照明と角度により様々な表情と心理を映し出していく
白い能面が照明と角度により様々な表情と心理を映し出していく
京マチ子と言えば、一般にはグランプリ女優の異名をとった『羅生門』、『雨月物語』、『地獄門』あたりが代表作なのだろうが、長年の役者としての経験と一人の女としての成熟が深い演技を引き出している本作こそが、彼女の“ベスト”なのではないだろうか。
ソルティは京マチ子の映画を10本くらいしか観ていないので断言するのは乱暴に過ぎるのだが・・・・。
愛する息子の幸せのために人倫を踏み越えていく業の深い母親。
母を愛するがゆえにその罪をかぶり追い込まれていくパラリーガル復員兵の息子。
その母子に遺恨を抱く覆面の男。
その母子に遺恨を抱く覆面の男。
息子をひたすら愛し待ち続けることを誓う大相続人の娘。
なんとなくどこかで聞いたことのあるような物語である。
犬神松子、最期の一服
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損