1937年松竹
64分、モノクロ

 関口宏の父親で天下の二枚目として名を馳せた25歳の佐野周二と、8つ年上の笠智衆とが、同じ大学の陸上部のライバルにして親友を演じるコメディ。
 この二人、小津安二郎の『父ありき』(1942)では父と息子を演じて、まったく違和感なかった。
 老け役イメージの強い笠智衆が、本作では青春真っ盛りの負けん気の強い若者で、「勝ったほうがいい!」とか拍子を取って歌い踊りながら佐野を挑発したり、なにかと競争を吹っ掛けたり、女に心を奪われた佐野を張り飛ばしたりと、まるで日活青春映画の主役のような振る舞い。
 なかなか見られない笠さんの青年姿になぜかしらドキドキしてしまふ

 時代が時代で(37年は日中戦争勃発の年)、行軍の模擬演習に駆り出される大学生の姿が描かれている。
 が、戦意高揚映画のようなプロパガンダ臭やナショナリズムの色合いは希薄で、物売りや香具師や芸人や荷馬車が行き交うのどかな田舎道や古い集落を舞台に、のんべんだらりとした空気が漂う。
 野外ロケの素晴らしさ。 
 あいかわらず、男の子たちのやんちゃぶりも楽しい。
 清水監督自身、幼少期はガキ大将で、戦後は十数人もの戦災孤児や浮浪児を引き取って育てたという。子供を思い通りに動かすのはお手の物だったのだろう。

 清水監督は大人の役者の芝居臭い演技を嫌い、作為ではない、あるがままなものを好んだらしい。  
 と言っても、それはリアリズムの追求とか、自然な演技というのとは違う。
 彼が好んで使った子供や素人の演技は、芝居臭くはないが、決して自然ではない。
 むしろ、棒読み感が強く、演技としては稚拙である。
 その下手糞さによって独特の間合いをつくり出して、オリジナルスタイルとしての“牧歌的滑稽”を生み出しているように思う。
 その意味では、自然な作風ではなく、“大映ドラマ”に近いような人工的な構築物ではないかと思う。
 ただそれを計算ではなく直観的にやってしまっているのが天才たるゆえんだろう。




おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損