1995年イギリスBBC制作
330分(55分×6話)

 ジェイン・オースティン原作『高慢と偏見』は、セス・グレアム=スミスによる『高慢と偏見とゾンビ』(2009年発表、2016年映画化)というトンデモない爆笑ホラーパロディを生んでしまうほどの大メジャー。
 イギリス人なら、否、英国文学を愛する者なら誰でも知っている傑作恋愛小説である。

 ローレンス・オリヴィエ&グリア・ガースン主演の映画(1940)、マシュー・マクファディン&キーラ・ナイトレイ主演の映画(2005)、どちらも19世紀初頭の英国カントリーハウスにおける有閑階級の優雅で格式高い日常と、個性的で魅力的なキャラクターたちと、英国人らしいユーモアたっぷりで、オースティンの原作をほぼ忠実に再現した素晴らしい出来である。
 英国で95年に放映され、40%という高い視聴率を誇り、社会現象にまでなったテレビドラマ版をやっと観ることができた。

 本作もまた、BBCドラマらしい時代考証ばっちりの丁寧で品格ある作りで、原作者への深い敬愛が感じられる。
 ロケも撮影も良し、脚本も演出も良し、役者陣も素晴らしく、上記の映画版と並び『高慢と偏見』映像化の決定版と言って過言ではない。
 実に見応えがあり、観ている間、令和日本の6畳間から19世紀英国の緑なすカントリー(田舎)へとタイムスリップしてしまった。
 見終わった後に立ち返った現実の侘しさよ(笑)!


カントリーハウス
カントリーハウス


和室


 同じBBC制作『ダウントン・アビー』に描かれる世界と同じなのだが、二度の対戦があり貴族階級の凋落が目立つ20世紀初頭を舞台とする『ダウントン』にくらべると、『高慢と偏見』はずっと牧歌的平和に満ちて、時の流れもゆったりで、人と人との交流が細やかである。(本作中の一番の事件は、主人公一家のバカな末娘の駆け落ちである) 
 何と言っても、移動するのに徒歩以外は馬か馬車しかなかった時代、日の光以外は蠟燭やランプの明かりしかなかった時代である。
 ジェントリィと呼ばれる有閑階級は、有り余る時間を遊びや恋愛や噂話にかまけることができた。

 本作でダーシー役をつとめた当時35歳のコリン・ファースは、この一作でスターダムにのし上がった。
 ソルティは『シングルマン』(2009)、『英国王のスピーチ』(2010)、『リピーテッド』(2014)などでようやくこの男優を意識するようになったのだが、すでに中年のコリンであった。
 若い頃のコリンは、たしかに相当の美男でセクシーですらある。
 原作から浮かぶダーシー像とはかなり異なるのだが、観始めたらそんなことは一切気にならなくなるほどの魅力を放っている。
 高慢で無愛想で特権意識丸出しの男をこれほど魅力的に見せることのできるコリンの演技力は、やはり本物なのだ。
 むろん上記の欠点など、ダーシーほどの美形と莫大な資産があれば、たいていの女子はつゆほど気にならないだろう。
 ダーシーの所有するカントリーハウス(ペンバリー)の壮麗さときたら!
 意地悪く見れば、エリザベス(=ジェニファー・イーリー)がそれまで嫌悪していたダーシーに対する気持ちを大きく変えたのは、ペンバリーを訪れてからなのである。


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コリン・ファースとジェニファー・イーリー


 何度映像化されても観たくなる、観て登場人物それぞれがどのように演じられているかを確かめたくなる、それ以前に発表された映像化作品と比較したくなる、そして英国がもっとも裕福で輝いていた時代と空間を追慕したくなる。
 『高慢と偏見』は、日本で言えば『源氏物語』にあたるような永遠の古典である。



おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損