1988年オーストラリア
99分

 『ダークシティ』(1998)、『アイ、ロボット』(2004)、『キング・オブ・エジプト』(2016)などで世界的に知られるエジプト出身のアレックス・プロヤスのデビュー作。
 長いこと陽の目を見ず、幻の傑作と言われていた。

 舞台は地平線と水平線の重なる広大な赤土の砂漠(オーストラリアロケらしい)。
 登場人物はたった3人。
 空を飛ぶことを夢見るマッドサイエンティスト風の車いすの男フェリックス。
 その妹で、見た目は可愛いが狂信的でてんかん持ちのベティ。
 兄妹が暮らす“ポツンと一軒家”に、不意にやってきた正体不明の男スミス。
 何者かに追われているらしいスミスは、砂漠の北に崖のごとく聳え立つ山を越えたいと言う。
 スミスの願いを知ったフェリックスは、念願の飛行機作りに着手する。
 
 冒頭から始まる見事な映像美(色彩と構図)、十字架やら廃墟めいた建築やらガーゴイル(怪物の彫刻)やらの続く象徴的なカット、登場人物のエキセントリックな衣装や言動、謎めいたストーリー。
 70~80年代に渋谷や銀座の単館上映で評判をよんだデレク・ジャーマンを思い出した。
 シュールで芸術性は高いかもしれないけど、観ていると眠くなるジャンルである。
 本作も途中でまぶたが重くなって、一時停止してコーヒーブレイクを入れた。

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 先を急いでいるはずのスミスが、フェリックスに引き留められて蟻地獄に落ちたように一日一日と滞在を伸ばしていく様に、「これはもしかしたら安倍公房『砂の女』の翻案なのでは?」と思った。
 妹のベティがしきりにスミスに対し、「ここいると兄に殺されるから早く出ていけ!」と脅しめいた警告を与えるところなど、いかにも『砂の女』めいた不気味さを感じさせる。
 残酷で狂気めいた結末が待っているのか? 

 しかるに、この予想も裏切られ、飛行機は何度かの失敗ののちに完成し、スミスは一人で空に旅立ち、兄と妹は砂漠に残される。
 スミスを追ってきたらしい正体不明の3人の男の影が地平線に現われ、一方、スミスの操縦する飛行機の翼の破片らしきものが家の前で休んでいるフェリックスの背後に落ちてくるところで、ジ・エンド。
 
 なんとも不可解なストーリーである。
 ソルティは聖書的な寓意を感じた。
 つまり、
  スミス=イエス・キリスト
  発明家フェリックス=大工のヨハネ
  てんかん持ちのベティ=聖母マリア
  3人の追っ手=東方からの3人の賢者
 しかし、文脈的には聖書のどのエピソードにも符合するものはなさそうだ。
 
 70~80年代にはこの種の思わせぶりなアート映画が流行った。



おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損